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蒼い星  作者: らんらら
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10.カッツェ

戦闘艦グレスデーンは、惑星リュードから五千光年離れた惑星セダ上空に停泊していた。

リュード宇宙ステーションの研究所爆破から二十時間が過ぎようとしていた。艦内では、艦長の部屋の前で、三人がもめていた。

銀色の髪の少女が、食事を運び入れようとするが、黒髪の青年が止める。

「いいじゃない、だってシンカもご飯食べないと。きっとお腹すいているよ」

「自分から出てくるまで、待ってやろうぜ」

「でも」

セイ・リンがため息をつく。

「そっとしておいてあげたほうがいいと思うわ」

「でもっ!」

ミンクは頬を膨らめて怒る。

「ミンク」

「もう!シキも、セイ・リンも、なんで!」


シキは、こういうときほどミンクが成長してくれればと思うことはない。

男が、落ち込んでいる姿をみられたいはずはないのに。


「ミンク。いらっしゃい。」

セイ・リンが、ミンクを強引に引っ張っていった。

はあ。シキがため息をつく。

シンカ、女に甘いのはよくないぞやっぱり。


「セイ、なんでだめなの?」

ミンクは自室のテーブルに持っていた食事の盆をおいて言った。

「ん。ミンクは、ご両親を亡くしているわね、確か。」

「!うん」

「その時、シンカはどうしてくれた?」

「シンカは一緒に町を出て。働いて、旅の資金を稼いで何もかもしてくれたの。私、ただついて行っただけだった」

「シンカもお母さんを亡くしたんでしょ?」

「うん。でも元気だったよ。ずっと笑ってたし」


セイ・リンは天を仰いだ。赤毛の長い髪が、ふくよかな胸元に流れている。

軍服ではないが、動きやすい乗務員用の作業着を着ていて、男性らしい服装がよけいに色っぽさを感じさせる。

ミンクは、大人の女性に、負けたくない。

だって、私はずっと小さい頃からシンカのこと見てきたんだから!

「あの時にね、シンカが私のためにがんばってくれたの。だから、今度は私が大切にしてあげるの」

「ミンク。あなたがそばにいるとね。デイラを出てからずっとあなたを守っていたときのように、シンカはがんばってしまうのよ。シンカだってロスタネスを亡くしたばかりだったのに笑っていたでしょう?無理させていたのよ」

「……」

「あの時あなたのために弱気なんて見せなかったシンカが、今は誰とも話をしたくなくて、出てこないのよ。それだけ今はつらいのよ。そっとしておいてあげましょう。きっと誰にも、弱い自分を見せたくないのよ」

「でも、私は弱くてもシンカのこと好きだもの!」


「もちろんよ。女は、男が弱いことを知っているものよ。知っていて、知らない振りをするの。」

「セイ」

「そうして、男が意地を張ってでも強くいようとする姿を愛しいと思うものなの」

セイ・リンは赤い髪をかきあげ、小さくため息をついた。

偉そうなこと言ってると自分をふと振り返ってしまう。


「待つことはつらいでしょ?でもシンカは今もっとつらい気持ちでいるのよ」

ミンクはうつむいて、自分のベッドに座り込んでいる。

「きつい言い方して悪かったけど、ねえ、ミンク。もう少し大人になって」

ミンクは大きく首を横に振った。


「私が子供だから、分からないって言うの?シキやセイは大人で、私は子供だから、私が考えるのは違うの?」

「そうじゃなくて」

ミンクは泣き出していた。




どのくらい眠っていたのだろう。

黒い革張りのソファーでシンカは目を覚ました。

天井を眺めたまま大きなあくびが出る。

ああ哀しくてもあくびなんか出るんだ。前もお腹だけはすいたよな。


ぐう。


またかよ。

自分の体の要求にいまいましさを感じながら、起き上がる。


怪我してもすぐ治るし、病気にもかからないし、どんな空気でも順応するし。母さん、本当に丈夫な体に作ってくれたんだな。

変に感心しながらバスルームでシャワーを浴びる。しっかりと瞳が蒼いことを確認して、あーっと声を出してみる。

いつもどおり。

また、みんな心配しているんだろうな。


少し照れくさいな。緊張しながらも部屋の外に出ることに決めた。あれからどのくらい時間がたったのかは知らない。

リビングのドアを開けようとしたその時だった。

誰かが外からドアを開けた。

「ちょっと待てって!」

シキの声。

目の前の男は、知らない顔だった。


どうやら、シキはこの男が入ることを止めようとしたらしい。後ろから、男の肩に手をかけている。

「シンカ!」

誰より早く、この、見知らぬ男が声を出した。気付くと、男にがっしり抱きしめられている。

「誰だよ。」

シンカより頭半分大きいこの男は、とろけるような笑顔と、滑らかな口調で言った。

「私は、カッツェ。レクトの親友であり、同僚でもあるんだ。」

とても、軍人には見えないが。身長の割りに華奢な腕、服装も、詰まった襟のぴったりとしたスマートなもので、とても動きにくそうだ。

「・・・あの。離してくれませんか?」

「おお!あの、レクトの子とは思えない綺麗な発音ですね!」


「俺、レクトの子供じゃないよ。」

「いやいや、この眉は奴にそっくりじゃないですか」

うれしそうに笑う。ちょうどレクトと同じくらいの年齢。亜麻色の髪に、緑の瞳。

やさしげな瞳がレクトとは違う魅力を放つ。

女性ならきっとつられて微笑んでしまうだろう。

カッツェと名乗った男はシンカをそのまま、ソファーのところまで引っ張ってくると、自分と向かい合わせに座らせた。

シキがむっとした表情でついてくる。

「いや、感激だな。奴から話は聞いていたけど、こんなに可愛いとは!それは、奴も夢中になるはずだ!」


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