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蒼い星  作者: らんらら
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1.隠された街デイラ 6

シンカは、もろく崩れた城壁を越え、ミンクとともに港町へ向かった。

この国、聖帝国ファシオンの首都である、聖都シオンへは、確か、船があったはずだ。

子供の頃から、アストロードで遊んでいたシンカには、船乗りの友達もいた。


夕方。ミンクが少し嫌がったけど、酒場の知り合いを訪ねた。

「どうしたの?シンカ、ひどい有様じゃない」

客は誰もいない。

この時間は、漁師はもう眠りについていた。だから、酒場も片付けに入っている。

立て付けの悪い扉を、音を立てて入っていくと、カウンターの中で洗い上げをしていたのだろう、

ユーン姉さんが声をかけた。

「うん。ちょっとね」

「なあに?また、喧嘩でもしたの?その子は戦利品なの?」

そう言いながら、シンカを手招きして、自分の部屋に連れて行ってくれた。

「あの、誰?」

ミンクが緊張した面持ちでシンカの袖を引っ張る。

その声は弱弱しい。疲れているし、つらいことがあったのだ。ちょっとしたことでも、泣き出しそうだ。

シンカは、できるだけやさしく笑って、ミンクの肩を抱いた。

「大丈夫。友達なんだ。でも、デイラのことは知らないから、言っちゃだめだぞ」

「……」

ミンクは黙ってうなずいた。


「ごめんね、ちらかってるけど」

「そんなのいつものことじゃん」

慣れた様子で入っていくシンカに、ユーン姉さんは笑った。

「あんたに言ってないの。その子に言ってるんだよ。まったく、女の子泣かすんじゃないわよ」

ぬらした布を二人分渡してくれながら、酒に焼けた声の姉さんがシンカの頭をこつんとつついた。

「ほら、これ、ちょっと大きいけど。その埃だらけの服、なんとかしなさいよ」

ユーン姉さんの手に、ぽんと肩を叩かれて、ミンクが一瞬泣き出しかけた。


「あ、なあに、どうしたの?大丈夫?」

少女の大きな瞳を覗き込む。

その、日に焼けた女性の心配そうな笑みに、ミンクはうなずいた。

大きな瞳をぎゅっと閉じて。


「あの、姉さん、ミンクは」

服を勝手に着替えたシンカは、ミンクの肩に手を置こうとする。


それをぴしゃりと叩いて、ユーン姉さんはにらんだ。

「シンカ、この子に何したの!」

「え、違うよ」

「いいから、あんたは向こうに行ってなさい!」



シンカの肩を押して、部屋から追い出そうとする女性の服を、ミンクが引っ張った。

「あの、私、シンカのそばにいたいの」

ミンクの赤い大きな瞳に、ユーン姉さんの勢いがそがれた。

「あ、そう。」

「ごめん、ちょっと訳ありでさ。俺、この子連れてシオンに行くんだ」

着替え始めるミンクに背を向けて、シンカは言った。


「なあに、遠いじゃない」


木の小さな椅子に座って、シンカは小さくため息をついた。

隣で、姉さんはテーブルに肘をついている。

「でも、行かなきゃ行けないんだ」

「話してくれないわけ?」

「男にはそういうときがあるんだ」

プッと吹き出して、ユーン姉さんは少年の金髪をなでる。

「誰かさんみたいなこと言うんじゃないわよ」

それは、ユーン姉さんを置いていった、船乗りのことを言っていた。

シンカも、彼とはしばらく会っていなかった。

頼りになる親友だった。

ユーン姉さんが寂しげな顔をして、窓の外を見つめた。

明日もいい天気なのだろう。嫌になるくらい夕焼けが赤い。


「大丈夫、すぐに、帰ってくるよ」

「誰のこと言ってるの?シンカ、あんたは約束を守る子だわ。あの人とは違う」

「うん」

「お金、あるの?」

「……大丈夫。俺、何だってできる」

ユーン姉さんは、少年を見つめ、次にミンクをちらりと眺める。

「上の部屋、あの人の部屋が空いてるから今夜はそこにとまって行きなさい」

「ありがと」


酒場の二階は、宿になっている。

辺境の港では、そんなに泊り客はいない。たまに、大きな商業船が停泊すると、

その乗組員が何人か泊まる。

年上の、ユーン姉さんの恋人もそんな一人だった。


シンカもよく、遊びに来た部屋だ。


「ユーン姉さんはね」

シンカは黙ったままのミンクに、話しかける。


「俺が初めて、この酒場に来たときに、ご飯食べさせてくれたんだ」

「……」

黙って、ミンクはスープをすすった。


「なんか酒場の雰囲気が好きでさ。俺、ずっと通ってたんだ。もう十年くらいになる」

不思議そうに見つめるミンクに、シンカは話を止めた。

ミンクの赤い大きな目はまだ少し腫れていて、それを見るたびシンカの心も痛む。

「シンカ、強いね」


ポツリと言った少女の言葉に、シンカは笑った。


「そうさ。俺、逞しいんだ!ミンクはデイラから出たことないけど、俺、あちこち行ったことあるからな。さすがに、シオンまでは行ったことないけど」

「……」

笑顔にならないミンクに、シンカはまた微笑んでみせる。

「大丈夫。俺に任せておけよ」



翌日、ユーン姉さんの紹介でシンカたちはアストロードから聖都シオンのあるラシア州の港町キャストウェイまで行く船に乗せてもらった。


アストロードからは、その港町が一番シオンに近い。

船にはじめて乗るミンクは、片道3時間の船旅に、すっかり参ってしまっていた。

船酔いで、もともと白い顔はさらに青ざめている。

シンカはミンクに付き添って、ずっと、甲板で風に当たっていた。

「ごめんね、シンカ。私、みっともない。」

また泣き出しそうになるミンクに、シンカは笑う。

「そういうとこが、かわいいんだから、いいんだ。」

半分、照れながら言ったのに、ミンクは聞き流す。

ミンクはデイラでも、一、二を争うくらい可愛い女の子だ。小さい頃から、みんなに

可愛いって言われているから、俺が一言言ったくらいじゃ、ぜんぜん気にならない。

ずっとそばにいて、幼馴染で。たぶん、俺が一番の仲良し、だと思うんだ。

でも、誰にでもやさしいから、ミンクが俺のこと特別って思っているかは分からない。

誕生日のプレゼント、奮発したのも、ちょっとがんばってるんだってとこ、見せたかったんだ。

シンカは、渡せずにずっと持っていたそれを思い出した。


シンカはミンクの銀色の長い髪が風でふわふわ頬に当たるのを感じた。

くすぐったくて、髪を手で束ねる。

白いうなじが見えて、少しどきっとした。

十七歳という年齢にしてはかなり経験をつんでいるつもりなのに、俺、ミンクに対してはぜんぜん駄目だ。

目をそらしてうなじを隠すように肩に腕を回した。



これから、ミンクをシオンへ連れて行く。

聖帝が保護してくれるはずだ。

デイラの住民は、この国にとって特別なんだ。

普通の人は、デイラの存在自体知らないけど、聖帝はデイラを大切にしていた。

デイラの住民だけが、ユンイラの栽培方法を知っていたし、精製する技術を持っている。

この国にとって、重要なんだ。

少し熱っぽいミンクに、そっと自分の上着をかけた。


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