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蒼い星  作者: らんらら
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9.再会2

ミンクは建物の外に出ようとして、エントランスの警備兵に止められていた。

「何で外に出ちゃいけないの!」

泣きながら怒る小柄な女の子に、困ったように二人の警備兵は顔を見合わせた。

「外は危険です」

「わりい、ちょっと癇癪起こしていてさ」

追って来たシキの姿を見て警備兵はほっとしたように手を離した。

その瞬間、ミンクは駆け出す。

「あの、ばか」

「待て!あんたも、外に出すわけには」

シキは肩に手を置いて止めようとする警備兵の一人を、睨みつけた。その口元は笑っている。

「どうせ、門より外には出られないんだろ。あいつは俺が連れ戻すから、黙って通せよ」

シキは腰に剣を持っている。剣を抜く様子は見られないが、それをも辞さない迫力にもう一人の警備兵が同僚を止めた。無用な争いは避けるべきだと判断したらしい。


「仕方ない。すぐに戻れ」

「ああ」

にやりと笑って、シキはミンクの後を追った。



建物の正面にあるロータリーを抜け、その先に芝生のある一角がある。

その芝生に座り込んでミンクは泣いていた。


「よう」

顔を手で覆って、ミンクは返事もしない。

「お前さ、気持ちは分かるんだ。親の敵だもんな。しかも、シンカがそちらを選んだことが悔しいんだよな」

ミンクがかすかにうなずいた。

「けどさ。俺たちに、他に何かしてやれるか?あいつのために何かしてやれるのか?」

ミンクは涙でくしゃくしゃになった顔を上げた。

「でも」

シキはにっこり笑って、その頭をなでる。

「お前もさ、がんばってるんだと思うんだ。見かけよりずっと強いし、しっかりしてるしな。けどさ、今のあいつの状況を救ってやれるのって俺たちじゃないんだ」

「……リュードに、帰ろうよ」

「ああ、帰りたいな」

「また、三人で旅しようよ。楽しいよ、きっと」

「きっと、シンカも同じこと考えたさ。だけどな。いくら考えても、逃げられないと判断したんだ」

「じゃあ私たちはどうなるの?ねえ、シンカはレクトと行っちゃうんでしょ?」

「お前を置いてくわけないだろ、あいつが。置いてくつもりなら、ここにも来なかっただろうし。俺たちの前には現れなかったさ。そうだろ、あのまま死んでしまったことにしておくのが一番よかったはずなんだ。それでも俺たちのために来てくれたじゃないか。守ってくれるって言ったんだからさ。信じてやれ」

「シキも一緒?」

「俺はレクトが嫌がろうとシンカについてくって決めたんだ。それになんだかもう、戻れないくらい遠いとこまで来ちまったしな」

空には一面の星。

夜のそこには蒼い星が見える。

「あれ、リュードなんだってな」

ミンクがうなずいた。

「遠くに来ちまった」

「うん」

ミンクは立ち上がった。

「戻るぞ」

「うん」


「あ、そうだ。シンカの、ほら、生まれのこと。あいつが言うまで知らなかったことにしておけよ」

「でも」

「あいつが言わないのは自分の中で消化し切れてないからだ。笑って話せないからだ。だから、あいつが自分で言えるようになるまで見ていてやれよ」

「シキって、なんでシンカのことそんなに分かるの?」

歩きながら前を歩く男の背中を見上げる。

「お前が分からなすぎ。俺にとってはそっちのほうが不思議だ」

ばしとミンクの小さな手が叩く。

「なんで、シンカ、これに惚れるかなぁ」

頭の後ろに腕を組んでシキは笑う。

「ひどいんだから!」



部屋に帰ると、そこにはシンカはいなかった。

代わりに赤毛の女性、セイ・リンがソファーに座っていた。

「お、シンカはどうしたんだ?」

「今、メディカルチェックを受けているわ」

「ああ、あの医者が見るやつ」

美しい女性兵士の隣にちゃっかり座り込んでシキが笑う。

セイ・リンは、足を組みなおして腕組みをすると、ちらりとシキを見つめた。

「シンカから聞いたかしら」

「なにをだ?」

「シキ、そばによりすぎ」

正面に座ってにらむミンクに、シキは手振りであっちに行けと合図する。

ミンクの頬がぷくっと膨らむ。

「私もシンカに同行するわ。あなた方は、決めたの?」

二人の様子に気付いているはずなのに笑み一つ浮かべずに、美しい赤毛のセイ・リンは淡々と話した。

「なんだ、お堅いな。軍人さんは」

「心配、じゃないの?」

「なにがだ?」

セイ・リンはため息をついた。

「今、何をされてるか、私では知ることができない」

「え?」

ミンクが身を乗り出して聞き入る。

「もし眠らされたり私たちから隔離されたりした場合には、大佐に、レクトさんにお願いするしかなくなるわね」

「ま、大丈夫さ」

にやりと笑いながら肩に手を回そうとするシキに、セイ・リンは声を強くした。

「何のんきなこと言ってるの?シンカにとって、ここに来ることがどれほど危険なことか!」

「その時には助け出すさ。何が何でもね」

穏やかに笑っているシキを、セイ・リンは改めて見つめた。

「なんだ、あんた、いつの間にかシンカと仲良しになったんだな。うらやましいな」

「シキ」

ミンクが睨むのと、シキの手がセイにつねられるのと同時だった。


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