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蒼い星  作者: らんらら
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9.再会

「私、ね。あの町で多分レクトを見かけたの」

ミンクが、ぽつりと言った。

シキと二人で共有のリビングで食事をしていた。

二人とも半分以上残している。味気ない食事。

「早くいえよ!いつだよ」

「商業区の、市場の人ごみで。多分、そうだと思うの。すぐに奥の細い道に入って行っちゃった。あのね、私がレクトを見たのは四歳くらいのことだから記憶はあてにならないんだけど、でもシンカに少し似ていたの」

「シンカに?」

「うん。でも、人ごみで近づけるわけでもなかったし、怖くって。五、六人の、シンカが言っていたような仲間を連れていた」

ミンクはフォークで魚の残りをつつきまわしながら言った。

「シンカ、小さい頃から、ずっとお父さんがほしかったんだ」

「ん?」

「シンカは、デイラでは特別だったの。姿が違うことも、ユンイラを必要としない体質とか、そんなのすべて含めてデイラの大人たちはみんなシンカのことを大切にしていたの。

いい意味で特別だったの。聖帝キナリスからも匿っていたわ。シンカ自身はそれをすごく嫌がっていたのね。そんなことより、普通にお父さんとお母さんがいることにあこがれていたの。デイラではそういう子供はいなかったから」

シキは、遠い目をする少女を見つめた。

「私の家はデイラの領主をしていたの。だからよく、帝国の警備軍が交替になるたびに、家に招いてもてなしていたりしたの」

「そのたびにね、シンカはそっと見に来ていたの。あの時、遊んでくれたレクトが、軍服を着ていたから、だから、もしかして会えるんじゃないかって」

結局、あの、私と一緒に三人で遊んだのを最後に、レクトは現れなかった。

「そんなに慕っていたのか」

ミンクはうなずいた。

シンカがどんな気持ちで破壊されたデイラを見ていたのか。改めて苦しくなる。

そこに、リックス少尉が突然、入ってきた。顔には満面の笑み。

「シンカが!その、ここに来たんです!」

「え?」

ミンクが立ち上がった。フォークを持ったままだ。

「ミンク!」

リックスの後ろから、あの、金髪の髪が見える。

「シンカ!」

駆け寄ったシンカに抱きしめられ、ミンクは胸が一杯になる。

「もう!心配したんだから!」

涙がこぼれる。

「ごめんな」

ミンクの頭をシンカの手がなでる。その胸の感触も腕の回し方も背の高さも、ミンクは覚えている。少しユンイラの甘い香りがする。それが余計にミンクを安堵させた。

「あ、ミンク」

魚のソースがニ人の服についている。

「あっ。ごめんなさい」

ミンクが慌ててフォークを置く。シンカがそれを待って、また抱きしめる。

「お前、少しはこっちも気にしろよな」

シキがふてくされる。笑っているのだが。

「シキ!ごめん。俺……」

シキは少年の肩をつかんだ。

「お前、目をどうしたんだ!」

「あ、なんか、変わっちゃったんだ。ここの空気の影響じゃないかな」

「本当!大丈夫なの?」

ミンクも覗き込む。

「俺は別に平気だよ。見えないわけじゃないしさ。それよりシキだって瞳の色が変わっているじゃないか」

笑うシンカ。元気そうで、瞳の色以外何も変わらない。


「お前、よく分かったな」

シキが照れたように笑う。

「ここの空気があっているらしいんだ。ここの空気はあの噴火以前の毒素のないリュードの大気と同じなんだと。研究所の医者が言っていた」

シキの黒い瞳はリュードの大気に含まれる毒素でにごり始めていた。それが今は澄んでいるのだ。本人ですら医者に言われるまで気付かなかったのに。

「そっか。よかった。ミンクは、ここの空気は大丈夫なのか?」

シキだけでなく、ミンクもあの小型マスクを装着していないことに気付いた。

「うん」

シンカの胸にはミンクがしっかりとしがみついている。

無理もない。ずっと我慢していたのだ。

リックス少尉はもらい泣きの涙をふいてそっと部屋を出る。三人だけで話したいだろう。


「シンカ、お前、どこにいたんだよ」

「そうよ!なんでもっと早く来てくれなかったの?」

ソファーにシンカを真ん中にして座ると、二人が責める。

「ごめん。俺、昨日まで眠っててさ、ほら、ミンク。俺昔から、たまにひどい熱出しただろう?あれで、動けなかったんだ。セイ・リンも一緒だったんだけど」

そっと、うそをつく。

「どこにいたの?」

「……」

シンカは、髪をかきあげた。前髪が伸びて、うるさいのだ。

「……俺とセイ・リンは、レクトに助けられたんだ」


ミンクとシキは身を乗り出す。

「大丈夫?」

「お前、話できたのか?」

シンカは、少し照れたように、頭に手をおいた。

「その、お父さんかどうかは分からないままなんだけど。ただ母さんがレクトに、俺のこと頼んだらしいんだ」

「頼むって何をだ?だいたい何でお前の母親がレクトに頼むんだ」

「あら、シキ、それはシンカのお父さんだからじゃないの?」

ミンクの一言に、シキもシンカも黙った。


「え、何か変なこと言ったかな?」

二人の様子にミンクは首をかしげる。


「……何を頼んだってんだ?」

シキが問いかけると、シンカはまた困ったように視線を落とす。

「俺、その、ほら、ちょっと普通じゃないだろ。それでさ。太陽帝国の首都星に連れて行かれることになっているらしいんだ」

少し、濁して話すシンカに、シキはため息をついた。

(教えられたのか。自分が何なのか。それでも、やっぱりミンクの前では平気な振りするんだな)


「シンカ。あのね」

ミンクが話そうとする。それを遮ってシキが割り込む。

「それでレクトはそれをどうにかしてくれるのか?」


ミンクはぷくりと頬を膨らめた。

そのかわいらしい表情をシンカは横目に見ながら彼女の髪をなでた。

「あの、俺、レクトと一緒に行こうと思うんだ。俺を仲間として迎えてくれるって言うんだ」

「仲間!?」

ミンクが声を大きくした。

「ミストレイア何とかって、会社のか?」

「うん。セイ・リンがいうには、その会社なら太陽帝国の皇帝から逃れられるんじゃないかって言ってた。今のままじゃ、俺は研究材料として捕まる。何の自由もなくなる」


シキが、久しぶりの麦酒を味わいながら、言った。

「レクトに会ったことないからさ、よく分からんが、まあ、わざわざ仕事の合間に危険を冒して助けようとしたわけだろ?お前の母さんのためだったとしてもさ、結構いい奴なのかもナ」

「俺もそう思うんだ」

嬉しそうに微笑むシンカ。


「……私は、そうは思わない」

ミンクは複雑そうな表情を見せる。

彼女の両親はデイラとともに亡くなっている。それを実行したのはレクトだ。仕事だと言った。


「ごめん、ミンク」

「シンカが謝ることないよ!だって私の父さんと母さんを殺したのは、シンカじゃないもの!あの人たちだもの!」

ミンクはシンカの手を振り払って、部屋を飛び出して行った。

「ミンク!」

後を追おうとしたシンカの肩をシキが抑える。

「シキ、俺、……」


「俺が行ってくる。お前は、自分のことだけ、考えてろ」

「!シキ」

シンカが顔を上げたときには、黒髪の男は閉まる扉の向こうに消えていた。

シンカは、椅子に座って、うつむいた。

俺、ちっともミンクのことを考えてやれてなかった。

レクトは二日間時間をくれるといった。

二日後の夜迎えに来ると。

それまでにミンクを説得できるんだろうか。

……それとも。

ため息をいくつかついた後だった。

「シンカくん」

リックス少尉だった。

「はい」

シンカは立ち上がった。

少尉は、いつものおどおどした表情で、言った。

「健康状態を確認したいということなので、一緒に来てほしいんです。」

「え、はい」

迷ったが、シンカはリックスの後についていった。


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