表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼い星  作者: らんらら
45/74

7.シンカ6

シンカが、セイ・リンとともに聖帝軍と戦っていた頃。シキとミンクは制御室に走った。

制御室には、警備兵の軍人たちが三人いた。

「手伝うよ!」

そう言ったシキに、若い警備兵がうれしそうに言った。

「助かります!正直、この設備に警備が五人だけなんて、きつくて。」

「おい、レベル4だ!」

通信機で何か話をしていたもう少し年上の、ひげを蓄えた警備兵が叫んだ。

「なに?」

不安そうにミンクが先ほどの若い兵を見る。

「この研究所を引き払うことになりました。惑星調査のことは、ファシオン帝国に知られてはいけないんです。この惑星の歴史に干渉することになってしまうので。」

「どうするんだ?」

シキがたずねる。

「研究所のデータをすべて太陽帝国の本星へ送ります。それから、この施設を破壊します。我々は小型の脱出艇で、宇宙へ退避するんです。」

シンカはどうしているのか!

二人は見合わせると同時に、走り出していた。

それに気付いた警備兵が、「あっ!だめです勝手に動いちゃ、危ない!」

「リックス!二人を追うんだ、セイ・リン少佐から、ニ人を同行させろと!我々は、排気口部から、脱出するぞ!」

「はい!」

リックス少尉は、二人を追った。施設内はそんなに複雑なつくりではない。制御室と、研究室が一番広い部屋として真中にあり、その上の階に研究者や警備兵の宿舎がある。

施設は川の地下に作られているため一直線の形をしている。

制御室側からは排気口部が一番近い脱出経路となる。

二人は研究室のほうへ行った。逆方向だ。

リックス少尉が、研究室の前に向かうと、避難する研究者たちとすれ違った。

「リックス!どこへ行くの?」

「リュード人を助けに。」

女性研究員が声をかける。

「危険よ!」

「命令なんだ!」言いながら走る。女性研究員は、一瞬迷ったが、リックスの後を追った。

他の研究員の姿はすでにない。

研究室とエントランスとをつなぐ通路は、侵入者の警報で、自動的にロックされていた。

リックスはそこで二人に追いつく。

「おい、ここを開けろ!シンカはどこなんだ!」

リックスも知らない。

「すみません、緊急事態で閉じられてしまうと、ここでは開かないのです。シンカは、多分セイ・リン少佐と一緒にいます。だから大丈夫ですよ!」

「とにかく早く行きましょう!」

ついてきた女性研究員が言った。

「サーナ!なんでついてきた!危ないだろう!」

リックスはその女性、サーナの手を取る。恋人同士なのだろう。

「シンカはどうなっちゃうんです?」

ミンクが二人に水を差す。

「大丈夫、シンカは地球に送られるはずだから、ダン所長も一緒だと思うわ!」

サーナが言った。

「行こう。どちらにしろ、ここにいても仕方ない!」

リックスに促されて、シキとミンクももと来た方角へ走り出した。

走りながら、シキがサーナにたずねる。

「なんで、シンカは地球に送られるんだ?」

「えっ!」

サーナがしまったと言わんばかりに、口を押さえる。

シキがいきなり、サーナを押さえこんでとまった。

ミンクは前で立ち止まったシキにぶつかって、鼻を押さえる。

「何するんだ!」

リックスが怒りに銃を抜く。

だが、すでに、シキの短剣がサーナに当てられている。

「教えろ!何か隠しているな!」

「彼女を放せ!」

「リックスっていったな。あんたがこの子を大切に思うように、俺たちにとっても、シンカは大切な仲間だ。」

リックスは、あきらめたように、銃を下ろした。

「私たちにとっても、彼は大切です。いいでしょう。」

「だめよ、リックス、話してはいけないって命令が・・」

止めようとするサーナの首に、シキが剣を押し当てる。表情は本気だ。

「サーナ。俺だって、君だって、シンカのこと嫌いじゃないだろ。

いや、研究所のみんなが、彼のこと、自分の子供のように思っているじゃないか。

大丈夫だよ、話しても分かってくれるよ。」

「どういうこと?」


ミンクのほうにも視線をやり、リックスは話し出す。

ロスタネスがはじめた研究のこと。たった一つだけ成功し、それがシンカであること。

帝国に研究の継続を命じられ、シンカを見守ってきたこと。シンカが、新しい生き物であること。

「本当に私たちは、シンカが子供の頃から、彼を守ってきたんです。

新しい命だから、いつ、どんなことが起こるか分からない。突然死んでしまうかもしれない。

彼の誕生日には、ここでお祝いをしたりしてたんです。また、一年無事に成長してくれたって。」

シキも、ミンクも、言葉が出ない。

「十五年経って、やっと安定したんだ。突然出す熱もなくなった。私たちは、あなた方よりずっと長く、見守ってきたんです。」

「だから、初めてここに来たとき、あんなに喜んでたんだ。」

ミンクが納得したようにうなずいた。

「ええ、デイラが攻撃を受けた後、我々は必死で彼を探しました。やっと、皇帝陛下も、彼を保護してくれる気になったらしいんです。

大丈夫、彼に危害を加えるようなことはしません。信じてください。」

「・・・わかった、とにかく、無事でいるんだな。」

シキもサーナを離した。

「悪かったよ。」

「さあ、行きましょう!」

詫びるシキをチラッと睨んで、サーナが、リックスの手をとる。盛んに鳴る警報が、四人の不安をかきたてる。

「よし、ミンク。」

「キャ!」

シキはミンクを脇に抱えて、二人の後を追う。


走りながら、聞いた話を頭の中で反芻している。

シンカは、このことを知ったらきっと、ひどくショックを受けるんだろうな。

きれい事言ったって、こいつらは自分たちの目的のために、シンカを利用しようとしている。

ユンイラと人間の合いの子。

自分自身がユンイラの成分を持っているから、怪我も治る。ユンイラの煙を吸っても平気なはずだ。

ロスタネスにとって、シンカは理想の人間だったんだ。シンカなら、この大気のにごったリュードでも、普通に生きていける。

だが、彼女は、普通に自分の子供が欲しくはなかったんだろうか?

愛する男と自分の間に生まれた子供であれば、理想でなくても、愛するものだ。

ロスタネス、どんな女だったんだ・・。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ