7.シンカ5
「ショックなのは分かるわ。でも、あなたは必要とされているし、愛されていたわ。さあ、一緒に来て。」
シンカの手を引いて行こうとするセイの手を、シンカは振り払った。
「嫌だ、いやだ。」
「もう、しょうがない子ね。」
逃げようとするシンカの手に、再びあの銀色のものを押し当てた。
シンカは驚いて手を引き、振り向きざまに転ぶ。
「抵抗しないでよ。時間もないんだから。」
シンカが、頭を振って、立ち上がろうとする。
「え?効かない?」
もう一度、薬を注射しようとして、シンカの肩を押さえた時だった。
電流が流れたようなぴりりとした痛みを感じて手を離す。
「何?シンカ、あなた?」
そうか、免疫ができてしまったのかしら、セイ・リンは想像した。
ユンイラはそういうものらしいって聞いたことがある。
どうしよう、時間がない。
セイはふと、ダンが自慢げに研究員に話していたことを思い出した。
レーザー銃を構えた。
どこなら、意識を失わせて、大事に至らなくて、運びやすくなるだろう。
シンカは、床に座り込んだまま、どこか遠くを見て、つぶやくように話し出した。
「オレさ、二十歳になったら、旅に出て、世界中あちこち回って、父さんを探すつもりだった。
母さんだけじゃなくて、オレ家族が欲しかった。夢だった。・・ばかみたいだ。
そんなの、最初から、何もなかった。」
「・・・オレ、なんで生きてきたんだろう・・・」
強く閉じた瞳から、涙があふれた。
ぞくりとした寒気が、セイ・リンの背をなでる。
セイ・リンの放った一閃が、シンカの左肩を貫いた。
その瞬間、白い光がシンカを包んだ。
まぶしくて閉じた目を開けると、シンカが横たわっていた。
「早く、しなくちゃ。」
シンカを抱き起こすと、手が張り付くような感触。
「あつ!」
慌てて、引き離すと、手のひらを見つめる。
まるで、ドライアイスに触れたかのように、真っ赤になっている。冷えきっている。
再びシンカを見つめると、その体の周囲には、温度変化のためだろう、ゆがんだ空気の層が見える。
(何?どういうこと?熱を、エネルギーを吸収している?)
通信機がおかしな音を立てる。電灯がちらつき、小型艇の表示パネルも乱れて点滅している。
「シンカ!あなたなの?シンカやめて!」
遠くで爆発音が聞こえた。
(時間?そんな、まだ・・・)
その瞬間、セイ・リンの視界は真っ白になった。
シンカも、白い光に飲まれていく。