7.シンカ4
シンカは、這って二人のところに行く。
ダンは、胸を矢で射抜かれていた。助からない。シンカは直感した。
「・・陛下に、届けるんだ。そのために、・・・セイ。」
「あなたがいなくてシンカはどうするのよ!あなたの子なのよ!」
「!」
驚いてセイ・リンの顔を見、そしてダンを見つめるシンカ。
「違うだろ。研究所皆の、子だ・・・」
ダンの呼吸が途絶えた。
蒼白な顔から急速に生気が抜けていく。
「ダン!」
セイ・リンが泣いてすがった。
シンカはその姿をただ見ているしかなかった。ダンがお父さん?じゃあ、レクトは?
まだ、先ほどの薬が残っている。頭がぐらぐらしている。
うまく、考えがまとまらない。
ダンの腰の通信機が、ピピとなった。
セイ・リンが涙を拭いて、応答する。
[所長は?]主任研究員だ。
「今、息を引き取ったわ。聖帝軍は一応抑えたけど、またすぐ来るわよ。」
[所長がレベル4を発令されました。データ転送が終わったので、すべてをダウンします。
我々は、脱出艇でステーションに向かいます。]
「了解。私もシンカを連れて行くつもり。爆破は何分後?」
「爆破!」
ダンを見つめていたシンカが、驚いて顔を上げた。
[五分後です!急いでください。]
「了解!ステーションで落ち合いましょう!」
通信機を放したセイ・リンに、シンカが詰め寄る。
「なんで、あんな事したんだ!俺を連れて行くって、どういうつもりだよ!爆破って、シキた
ちはどうなるんだ!」
「ここは、ファシオン帝国に知られてしまったの。ダンから聞かなかった?この調査は見つ
かってはいけないの。だから、すべてを破壊して、何も残らないようにするのよ。」
美しい赤毛の女は、レーザー銃をシンカの額に突きつけた。
「動かないでね。」
セイ・リンは通信機で部下を呼び出した。
「ラカント少尉、あなたたちはリュード人とともに排気口部のポッドで非難して。五分後に
爆破よ!私はシンカと行くわ。ステーションで会いましょう。」
一方的に話して通信を切ると、セイ・リンはシンカを見た。
「シキたちは、警護兵がいっしょに助けるわ。大丈夫よ。さ、このポッドに乗るのよ。」
「まだ、質問に答えていないぞ!」
セイ・リンは無言だ。
「ダンが黙っていたことを、あんたが教えてくれればいいんじゃないのか?」
あきらめたように、シンカを狙っていた銃を下ろした。
「分かったわ。でも、代わりに逃げないでね。」
「いいだろう。」
シンカは青く深い瞳を、逸らさずまっすぐ向けてくる。
「あなたの父親はダンよ。」
セイ・リンはさらっと言った。
「!」
「正確に言うと、ダンの精子と、ロスタネスの卵子で作った受精卵から産まれた。」
「じゅせいらん?」
「後、そうね、ユンイラの遺伝子とか、いろいろと一緒に。」
「え?」
「私は研究者じゃないから、詳しくは分からないし、立場上は教えてももらえないんだけど、ロスタネスが私に言ったのよ。
あなたは、ダンとロスタネスの子供。でもその受精卵に、ユンイラの遺伝子を組み込んで、作られた、のよ。」
セイ・リンは言いにくいのか、言葉を選んだ。
「作られたって・・・」
「つまり、新しい人間。地球人でも、リドラ人でも、リュード人でもない。
そして、その、植物のユンイラが入っているから・・正確に言うと、人間といっていいかどうか。あたらしい生き物なの。ああ、うまく説明できないわ。」
生き物?
人間じゃない・・だから、すぐに傷が治ったり、ユンイラがいらなかったり、・・・シンカは自分の手のひらを見つめていた。
血だって流れている。言葉も、姿だって人間だ。それなのに?
「ロスタネスは、デイラの人々を救いたかった。だから、そういう研究をしたの。
でもね、それは、宇宙で禁止されている研究なのよ。だってそうでしょ?人間を作り出せてしまったら、子供を産む必要がなくなってしまう。
死んだらまた作ればいい、なんてことになってしまうから。でも、ロスタネスはダンにそそのかされて、やってしまった。
失敗を繰り返しながら、成功してしまったの。ダンは、あなたが生まれてすぐ、罪に問われて、遠い星に転勤になった。
残された私たちは、あなたを処分することも考えたわ。けれど、それこそ人道に反する。皇帝陛下の命令で、そのまま、あなたを監視し、研究を続けてきた。」
シンカは瞬きもできず、赤毛の女性兵士を見つめていた。言葉もない。
「見て。これは、研究所の皆が持っているわ。ロスタネスが、毎年くれたのよ。」
セイ・リンがカード状のものを、壁面のスクリーンの横に挿し込んだ。スクリーンに映像が映る。
「俺・・?」
幼い頃のシンカ。母親と笑っている。三歳、四歳。どれも、誕生日のお祝いのようだ。
毎年決まって、母さんがシンカの好きなケーキを焼いてくれた。十歳。十一歳。
次々と映っては消える自分の姿を、シンカは呆然と見つめていた。小刻みに体が震えている。
「ロスタネスはあなたを本当の子供のように可愛がったわ!私たちだって、こうやって、小さい頃からずっと見守ってきた!」
本当の、子供。
じゃなかったんだ、俺。
「・・・母さんは、・・俺にデイラの希望を託した。じゃあ、あんたたちは、俺に何を期待したんだ?」
シンカの悲壮な表情が、セイ・リンの胸を締め付ける。
「・・・ユンイラよ。」
「ユンイラ?」
「あなたは、からだの中で、ユンイラの成分と同じものを作り出しているの。人体に害のない、新しい成分を。」
「・・それ、を、地球人に使う?」
シンカは自分の胸を押さえた。この体にユンイラが入っている。うそだろ・・?
「ええ。帝国は、あなたを必要としている。だから、連れて行くわ。」
いやだ!
シンカの頬に涙がつたう。
俺が、人じゃない?ユンイラ?作り出された、生き物。