表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼い星  作者: らんらら
42/74

7.シンカ3

シンカたちは、あの研究室の横の部屋で宇宙の図鑑を見せてもらっていた。新しい知らなかった世界。

空気のない宇宙空間。最大十万光年を四時間で移動できる最新の宇宙船。

興味は尽きない。

そのとき警報が鳴る。

「なんだ?」

研究室に行くと、研究者たちも慌てている。

「制御室、何があった?」

ダンが、制御室に報告を求める。

[シン川の水位が下がった模様です。上流で、ファシオンの軍が、橋の建設工事を始めたのではないかと]

「影響は?」

[先日の攻撃でカモフラージュ装置が故障していますので、水がなくなると丸見えですよ!]

「なんで直しておかなかった!」

[人手不足ですよ!警護班は五人しかいないんです!とにかく、エントランスからと、排気口からの侵入に備えて、人員を配置します。システム修復に数人、よこしてください。]

「しょうがないな。分かった。」

通信をきると、ダンは穏やかな表情とは少し違った雰囲気で、三人を見る。

「シンカ、危険だから、君たちは部屋に戻っていてくれないか?」

「あの、お手伝いします。」

「侵入してきた聖帝軍をやっつけるくらい、慣れたもんだからな。」

シキが腕をぐっとまげて力こぶを作ってみせる。

ダンは少し考えて、言った。

「では、シンカはセイ・リンとともに行動してくれ。シキとミンクは制御室の警備兵を手伝ってくれ。」

「分かった。」

シンカはそう言って、シキと拳を合わせる。

「後でな。」

「ミンクを頼むよ。」

にっと笑って、三人は出て行く。


ダンは、シンカたちがいなくなるのを確認して、研究者に命令を下す。

「データをすべて本国へ送れ。リスクマニュアルのレベル4で行くぞ。場合によってはここを放棄する。」

「了解しました。」

研究者たちは、それぞれの場所に散り、作業を始める。

ダンは、腰につけた通信機で、セイ・リンを呼び出した。

「セイ・リン。シンカを地球へ送る。警備のふりをして、至急エントランスへ連れて行くんだ。

あの二人は引き離せ。」

[・・・了解しました。]



シンカたちが入ってきたあの通路の途中に、緊急脱出用の小型艇がある。

その船でステーションまで行けば、後はなんとでもなるのだ。セイ・リンは、苛立っていた。

ダンは、本当に冷酷だ。ロスタネスの気持ちを知っていながら利用していた。そんなダンに気付かず、当時は

セイ・リンも惹かれていた。セイ・リンは、ロスタネスをライバルとして意識していた。

結局、シンカの誕生で、私はあきらめたのだけれど。ほろ苦い記憶。


「ダン、なんだって?」

セイ・リンの後を追って走りながら、シンカは問う。

「エントランス、あなたたちが入ってきたあの入り口を警護するの。一番侵入されやすいから!」

うそを言いながら、苛立ちを感じる。

シンカたちが初めてセイ・リンと出会った扉の外に出ると、赤毛の女兵士は立ち止まった。

「はあ。すごい足、速いね。さすが軍人さんだ。」

「あなたの鍛え方が足りないのよ。あ、これ、持っているようにってダンが。」

「え、何?」

受け取ろうとして手を差し出す。

同時だった。セイ・リンが何か筒状の銀色のものをシンカの手のひらに押し当てた。

ちくりとした。

「何・・」

「悪く思わないで。あなたのことは嫌いじゃないんだけど。仕事だから。」

ウインクを一つして、セイ・リンは小型艇の準備をはじめる。

シンカは、視界がぐらつくのを感じる。足の感覚がない。

向こうで、セイ・リンが通信機で誰かと話をしている。

壁にもたれかかったまま、シンカはずるずると座り込んだ。

気分が悪い。目が回る。

何だよこれ、・・シキ、ミンク。

二人は大丈夫だろうか。

視界が暗い。目を開けているのかどうかも分からない。

耳鳴りがひどい。




そのまま、どれくらい時間がたったのだろう。手足の感覚もない。

ぐいと肩を起こされ、相手がダンだと気付いた。

「・・」

ダンと呼んだつもりが、言葉にはなっていない。

「セイ・リン、準備はどうだ?」

ぼやけた視界の端で、赤い何かが動いている。セイ・リンの髪かな。なんだか暗い。

「ポッドは準備できたわ。」

不意に、ぐらりと通路全体がゆれた。

「しまった、もう来たか!」

爆発音。足音と、火薬の匂い。

(聖帝軍かな?驚いただろうな、こんなところにこんなものがあるなんて、さ。・・)

シンカはぼんやりと考えていた。

「きゃあ!ダン!」

セイ・リンの悲鳴でシンカの心臓がドクリと脈打った。

はあ、一つ大きな息をついて、シンカは目を開けた。目の前に、腕がある。シンカはダンの

体に半分埋もれている。ねっとりと、生暖かいものが肩を伝って落ちる。血の匂い。

ダンの体を何とかずらす。顔だけ起こすと、背中に矢が見える。

聖帝軍の矢が、ダンの背中に刺さっている。

「セ・・リン。」

シンカは、まだうまく言葉が出ない。

セイ・リンがあのレーザー銃で、応戦している。シンカは、壁に手をつきながら立ち上がる。

背中の剣に手を伸ばす。

「・・・う。」

ダンの声。大丈夫、まだ生きている。

シンカは、よろめく足で、聖帝軍に切りつける。

セイ・リンも援護する。

必死だった。

何とか、最後の一人を片付けると、肩で息をして座り込む。

こんなに、聖帝軍ごときに必死にならなきゃいけないなんて・・シンカはセイ・リンにぶつくさ

言う。

「いつもなら、簡単なのに・・バカヤロ。」

「悪かったわね。」

こちらもあまり余裕はないようだ。ダンのそばにかがんで、傷を見ている。

再び壁に寄りかかって座り込んだシンカは、ぼやける目をこすって、たずねた。

「どう?」

セイ・リンは何も答えず、ダンの体に突っ伏した。

死んでしまった?

「ダン!ねえ、いいの!シンカはどうするのよ!あなた、何も話さずに死んでしまうつもり?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ