7.シンカ
そこに、彼らの会話が聞こえたかのように、食べ物らしきものを乗せたワゴンを従えて、ダンが入ってきた。
ワゴンは、どういう仕組みなのか、ダンが進む方向にゆっくりついてくる。
三人のいるテーブルまで来ると、ワゴンはテーブルの高さにせり上がって、テーブルにぴったりと一体化した。
目を丸くして、その様子を見ている三人に、ダンは笑う。
最初の印象の、穏やかな研究者だ。
「お口に合うといいが。ロスタネスは気に入ってくれていた。」
すでにスープらしきものを口に入れようとしていたシンカが、熱さに舌を引っ込めた。
スプーンを掲げたまま、ダンを見つめた。
「ダンは母さんと仲間って言っていたけど、どういうことなんだ?」
「ああ、その話もしてあげないとね。」
穏やかに笑うと、ダンはポケットから、あの首飾りを差し出した。
「!それ。」
「君が、ロスタネスの墓にかけてくれたんだろう?これは、私が彼女にプレゼントしたものなんだ。」
「!」
「ロスタネスはね、デイラで一人暮らししていた。偶然、研究所のことを知られてしまってね。
でも、彼女は聡明だったから、新しい世界に前向きな興味をもってくれた。私たちにとっても、ユンイラの情報を得るためにとても貴重な存在となった。
当時十八歳だった彼女は、私や仲間の研究員から、いろいろな知識を得て、二十歳の頃には立派な研究員になっていた。」
「母さんが・・」
「彼女はね、デイラの人々を救いたかったんだ。私たちとユンイラを研究すれば、デイラの人たちを救えるのではないかと考えていた。
彼女には、時間がなかった。だって、そうだろう?
デイラの人たちは四十歳まで生きられるかどうか。彼女は人生の半分を過ぎていた。」
「そこで、君に、すべてを託したんだ。」
シンカは見つめるシキとミンクとに視線を合わせた。
「・・俺に、いろいろ教えたのはそのため?研究者になれってこと?」
「うん、まあ、・・そういうことかな。後継者として、必要な知識を、教えてもらっていたんだ。」
「お前、そんなに覚えてるのか?」
シキがニヤニヤしてからかう。
シンカは、野菜のようなものをかじりながら、顔をしかめた。
「変な言葉なら覚えてるよ。あと、なんだっけ、惑星の名前とか、なんか、そういうの。」
「なんだそれ。」
「ああ、共通語を教えてもらったんだろう。この星の言葉とは違うからね。」
シンカがパンを口に含みながら、もごもごと変な言葉を話す。半分ごまかされているような。
「お前、本当かそれ。あやしいぜ。」
シキがあきれて笑う。
「いや、正しいと思うよ。」
ダンが真顔でそういうので、シキはつまらなそうに鶏肉らしき料理に手を伸ばす。
「そっか。だから、みんなシンカのこと知ってたのね。」
ミンクが言った。
「私は、研究の都合で、ロスタネスが二十歳になった頃に、他の惑星に行くことになった。
そのとき、お別れのしるしにその首飾りをプレゼントしたんだ。」
「ふうん。」
「デイラが攻撃を受けたとき、我々も、ここを守るのが精一杯だった。ロスタネスを、助けに行く余裕がなくてね。残念なことだ。」
シンカの口がとまった。
「まあ、ゆっくりしていってくれ。歓迎するよ。好きなだけいるといい。仲間の家族なんだから。」
・・家族。シンカは久しぶりに聞いた気がする。家族か。
ダンが部屋を出て行ってから、三人は食事に夢中になった。
味付けや形は変わっているが、基本的なことは同じらしい。肉は肉だし、野菜もそれらしい。
なにより、おいしかった。
「驚きだよな。惑星だの太陽帝国だのはまあ、そういうもんかも知れねえが、シンカのお母
さんが研究員だなんてよ。」
シキの言葉にミンクがうなずく。
「なんだか、一度にたくさん、いろんなこと聞いたから、実感わかないね。」
「うん。そうだね。」
シンカもうなずく。
そこで、ふと、シンカはフォークを置いた。
顔を上げて、二人を見つめる。
「なんだ?食べないのか?」
返事が来る前にシキは、シンカの目の前の肉を焼いたものを一つ取り上げる。
「あ、もう。あのさ、二人とも、さ。」
「なんだ?」
「なあに?」
シンカは二人の顔をかわるがわる見つめて、話し出した。
「俺の、ことでさ、二人を巻き込んでる気がしていて。もし、その、」
バシンと大きな音を立てて、シキが少年の頭を叩いた。
「いってえ!」
「馬鹿か、お前。前にも言っただろ!とことんついてくってな。」
「そうだよ、シンカ。シンカが私のこと守ってくれるって言ったんだから。最後まで責任とってね。」
そう言って笑うミンクを、シキがからかう。
「お、それは愛の告白か?」
「もう!おじさんなんだから!じゃあ、シキのだってそうじゃない!」
「俺がシンカに愛の告白してどうすんだよ。」
「・・ありがと。うれしいよ。」
にっこり笑うシンカのタイミングに、二人は吹き出した。
「お前今、受け入れたぜ、俺の告白!」
「馬鹿、なに言ってんだよ!」
顔を赤くして、言い争いに少年も加わった。




