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蒼い星  作者: らんらら
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6.知らなかった世界6

シン川の水は、あまり多くない。白くにごった水が、緩やかに朝日を反射しながら流れている。

ダンは、腰につけた機械を操作した。

「ここから入る。」

川の真ん中から、筒状の大きな塊が突き出てきて、とまったと思ったら岸に向かって大

人一人がとおるだけの幅の、黒いわたり板が延びてきた。

「うへ、なんかなぁ。」

シキが嫌な顔をする。

「はじめてみるね、こういうの。」

ミンクがシンカにしがみつく。

シンカは黙ってうなずいた。緊張を隠せない。

レクトが、いるかもしれないのだ。


四人はそこを渡り、筒に開いた穴から、中に入った。

筒の中は、予想以上に広く、ダンの操作で四人が立っている床ごと、下に降りていく。

「怖い。」

しがみつくミンクの肩をシンカが抱いている。その様子を、ダンが見ている。

「なんだよ。ミンクが珍しいのかよ。」

睨むシンカを見て、男が笑った。

「いや、ロスタネスも同じだったろう?まあ、見るたびに、デイラの人々は美しいなとは思うが

ね。」

ダンはシンカより少し黄色味のかった肌をしていて、短い金髪に、茶色い瞳。穏やかな

顔で、やさしそうでもあった。レクトとは正反対に思う。


床の下降がとまる。機械を操作しながらダンがシキに言った。

「私のような研究者が、もう、十五人ほどいる。後、ここを守っている兵士も数人いる。だ

が、君たちに危害を加えるようなことは私がさせない。安心してくれ。」

「あの、レクトは、いるの?」

シンカがたずねる。

「ん?いや、彼はもういない。以前は、そうか、かなり前になるのか。ここに来ていたこともあったがね。」

「そう。」

「あんた、レクトの仲間なのか?」

シキはまだ、腰の剣に手を添えていた。

「私は、レクトの仲間ではない。シンカの母親のロスタネスとは仲間だった。

大丈夫、ロスタネスの大切な子供を危険な目に合わせるわけないだろう。」

「・・分かった。」

シキはしぶしぶ、剣から手を放す。

部屋の壁の一部が不意に音もなく開いた。

シキはつい、剣に手が行く。くせなのだ。

扉の向こうには、白くて明るい光の中、通路が先に伸びていた。

この灯りはなんだろう。三人とも、初めて見る世界に圧倒されている。


「ここは、太陽帝国の研究所なんだ。」

ダンが、先頭を歩きながら説明する。

「分かるかな?君たちのいるこの惑星のほかにも、人が住んでいる星があるんだ。」

「わくせい?星?」


ミンクが問い返す。聞いたことがない。

シンカは、うなずいている。

「お前知ってるのかよ。」

シキがシンカに問う。そういえば、歴史にも詳しかった。

「母さんが、話してくれた。俺、ミンクたちみたいに学校行けなかったから、何でも母さんが教えてくれたんだ。

この俺たちの惑星はリュードって言うんだ。惑星って言うのは、今、この同じ空気を共有しているすべての土地のことを言うんだって。

だから、他の惑星って言うと、空のずっとずっと上の方、夜空に見えるあの星のことなんだって。」

「あれに、人がすんでいるのか!」

「全部じゃないけどね。昔のカンカラ王朝にあったような進んだ技術とかがあるんだってさ。」

ミンクは尊敬のまなざしをシンカに向ける。


ダンが、うれしそうに笑った。正確に言うと少し違うのだが。

この文明レベルにあって、ここまで理解しているなら、上出来だろう。


「私の生まれた惑星リドラは、ここからずっと遠いところにあるんだよ。このリュード星に一番近い惑星セダまでの距離でも、人が一生歩きつづけてもたどり着かないくらい、遠いんだ。」

ダンが説明する。

「どうやってきたんだよ。」

シキが聞く。

「光分子エネルギーという力を使った宇宙船で来る。とても早いから、ここからセダまでなら4時

間くらいで着くよ。」

「シンカが言ってた、水が分解するエネルギーっていうの?」

ミンクがたずねる。

「それは、もう少し違うものだよ。」

「すごいな。」

シンカは単純に感動している。


「その船に乗ってみたいな!」

「私、怖い」

「お前ら単純だな。」

シキがぼやく。

「ここだ。」

ダンが立ち止まり、三人も止まった。

通路はそこで行き止まりになっていて、ダンが機械を操作すると、壁ごと開いて、その先が見える。

女性が立っていた。

「ダン。久しぶりね!」

三十歳くらいの女性は、体にぴったりした鈍く光る服を着ていて、赤い髪が肩あたりでゆれている。綺麗な人だ。ダンと握手すると、ダンの頬に軽くキスした。

「いつ帰ってきたの?知らなかったわ。」

「二週間前にね。君はステーションに行っていたって聞いたから、すれ違いだったな。十七年ぶりか。ずいぶん色っぽくなったな。」

「ダンはすっかりおじさんになったわね。」

「ずいぶんだな。」

「ふふふ。会えてうれしいわ。」

首を傾げて笑うくせは、その女性の年齢にしては少し幼いしぐさだ。それがまた、魅力的でも

あった。

そこでその女性は、三人の存在を思い出したらしい。

「ところで、このリュード人は?」

三人は顔を見合わせた。リュード人って呼ばれているのか。

「!・・シンカ?」

女性がシンカに気付いた。


「俺のこと知っているの?」

ダンが、ウインクしながら紹介した。

「ああ、彼がシンカだ。ロスタネスの子。

横にいるのがミンク。デイラの生き残りだ。で、後ろの青年がシキ。見たところ、山岳民族だと思うんだ。」

「この人はだれ?」

ミンクが聞いた。

「ああ、ごめん。彼女はセイ・リン。この研究所を警護している太陽帝国の軍人なんだ。」

セイ・リンはシンカをじろじろと見ている。


ダンは、セイ・リンと別れて、さらに奥へとシンカたちを案内した。

鈍い鉄色の部屋が続く。白い不思議な灯りが天井の隅から足元を照らす。

「この先は大勢いるぞ」

そう言って、ダンは扉を開いた。

そこは、白い壁白い光、広い部屋だった。

大勢の大人が立っていたり、機械の横に座っていたりする。みな、白い上着を着ている。

ダンに気付いた一人が、三人を見て声をあげる。

「シンカ!」


「えっ?」

一斉に注目を浴びて、シンカはどきりとする。


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