6.知らなかった世界5
「あんた、レクトの仲間なのか?」
シンカも剣を抜いた。ミンクを後ろにかばう。
「その、変な武器、あの日レクトの仲間が使っていた。」
シキも男の手元を見つめる。
男は落ち着き払った様子で、シンカを見つめた。
「レクト・シンドラなら、知っている。」
同時に、シンカは飛びかかった。男との距離は約八歩。
シキも、続く。
ミンクは後ろの瓦礫に隠れる。
男は、飛びのきながら、あの武器で、シンカを撃った。
一瞬だった。
黄色い細い光が、シンカの肩を撃ち抜いた。
シンカは撃たれた右肩をかばうように転がった。動かない。
「シンカ!」
駆け寄るミンク。
シキは、シンカを気にしながらも、二人の前の盾となる。
「シンカ?」
男がそうつぶやいて、武器を下ろした。
「きさま!」
シキが飛び掛る。男は武器を腰に戻した。
「待ってくれ!」
相手が両手をあげて、繊維喪失を表現する。
振りかざした短剣を、止めた。
軍人のシキには、丸腰の相手を斬ることができない。
「その子供、シンカというのか!」
剣を男の喉に突きつけても、抵抗する気配がないので、シキも剣を納めた。
「シンカ!」
ミンクがシンカの体を揺らす。
シキも、剣を納め、シンカの傍らにひざをついた。シキは、落ち着いている。
気を失っているシンカを、男も見守る。
「シンカ、しっかりして!」
ミンクの泣き声で、シンカはうっすら目を開けた。
「大丈夫だよ。ちょっと、痛いけど・・治るよ。」
シキが、シンカの背の鞘を外してやる。少年は小さく息をついた。
「ミンク、シンカはちょっと特殊なんだ。大丈夫だよ。」
血が止まっている。シンカが、体を起こそうとするのをシキが支える。
「多分、傷はもうふさがったよ。」
シキが、そっとシンカの手をどけて、破れた服をめくってみる。
「ああ、傷はない。」
「本当?よかった。」
素直に、うれしそうにしているミンクの表情に、シンカは弱々しく微笑んだ。
「痛みが消えるのには時間がかかるけど、っつ!・・・傷だけは早いんだ。
ミンク、ごめん。だまっていて。」
「ううん。撃たれたときはすごい怖かった。今のは、うれしいすごいなの。」
涙を拭きながら微笑むミンク。シンカはその額に手を当てて慰める。ミンクはたまに変な言
葉使うな。
「君は、ロスタネスの子供なのか?」
三人はすっかり忘れていた男を見上げる。
「そうだよ。母さんを知っているの?」
残る痛みに、表情を硬くしながら、シンカが問い掛けた。男は、近づいて、シンカの顔をよ
く見ようとする。
シキとミンクがシンカをかばう。
「いや、すまない。君たちがいきなり飛び掛ってくるから。でも、大事に至らなくてよかった。
私はダン・デリストという。科学者だ。」
かがくしゃ?
シキとミンクはは顔を見合わせる。聴いたことのない言葉だ。
シンカが二人を見る。
「知らないの?母さんが、教えてくれた。なんか、いろいろ勉強する人だって。本物は初めて見たけど。」
「そうだよ。ここの地下に研究するところがあるんだ。」
シキが、不意に立ち上がった。
野営地のほうを見つめる。
「そろそろ、やばいぞ。」
兵が起きだしたらしい。
「ここでは危険だ、研究所にこないか?そこなら安全だ。」
シンカが、二人を見る。
二人とも同時にうなずいた。行ってみよう。レクトにつながる手がかりだ。
ダンに導かれ、三人はデイラの真ん中を流れるシン川の、橋があったあたりに来た。痛みの残るシンカは、肩で息をしている。
ミンクが心配そうに手を添えている。きっと、すごく体力を消耗してしまうんだ。ミンクは思った。
傷が消えたからといって、治ったと判断するのは早い。体の中はまだ、傷と戦っているのかもしれない。
二人の男の後姿を見つめながら、ミンクは頬を膨らます。
もう、大人二人はぜんぜん気にしないんだから!