6.知らなかった世界4
アストロードから、ニ時間。シンカは、レクトたちを案内したところより、さらに回り込んだ城壁の奥の割れ目から、町に入った。
ここなら、すぐに林に紛れることができるはずだ。
三人は、荒れ果てた町を見渡して、改めて、破壊の力の大きさを思い知る。直撃を受けたらしい大人の背丈ほどもある深い穴が、あちこちに開いている。
ユンイラの畑の跡は、瓦礫が片付けられていて、脇に帝国軍の野営地だろう、テントの群れが見える。
まだ、起きていないのか人影は見えない。
「ひどいな。」
シキは、二人の肩に手を置いた。
改めて、気持ちが引き締まる。残骸が一面広がり、何があったところなのか、まったく分からない。
よく、二人が無事だったものだ。この惨状を、聖帝キナリスは見たのだろうか?
いや、知らないのだろうな。
見たのであれば、この破壊をシンカがやったなどと、考えられるはずがなかった。
この国のどんな兵器の力で持ってしても、不可能な攻撃。火薬を使っても、石壁やレンガを溶かすことはできない。
たくさんの、人であったものが、この瓦礫のあちこちにある。ひどい異臭がそれを想像させる。
戦場で、いろいろなものを見てきたが、こんなに吐き気を感じるのは初めてだった。
「母さんのとこ、ちょっと行っていいかな。」
シンカの言葉に、ニ人は黙ってうなずく。
この、不毛な廃墟で、どんな手がかりが得られるのか、何もないような気がした。絶望感が漂う。
自然と、三人とも無言になる。
瓦礫をよけて歩きながら、三本の木が立った場所、もともと、シンカの家だったところに三人が立った。
三本の木の一つに、母さんの気に入っていた首飾りをつけておいた。・・・はずだった。
「あれ、ない。ここに、母さんの首飾りをつけておいたんだ。」
シンカが座り込む。
シキは眉間にしわを寄せる。
「盗まれちゃったのかな?」
ミンクも、シンカの横にしゃがむ。
「ごめん、母さん。一緒に入れてあげればよかった。」
シンカの声が少し震えている。ミンクがくすんと鼻をすすった。
背後に、人の気配を感じて、シキが振り返る。同時に、腰の剣に手が行っている。
「おい。」
シキの声に、墓を見つめていた二人も立ち上がって振り返る。
背の高い、金髪の、四十歳くらいの男。うわさの、あの男だとすぐわかる。
想像していたより細い。あまり日にも焼けていない。
「君たちはなんだ。」
そいつが怪訝そうに三人を見つめる。男の手には、小さな白い花束がある。
「そっちこそ、誰だ!」
シキが睨んで、剣を抜く。朝日が、男たちを横から照らす。
「何のつもりだ。」
男は、腰に手をやる。腰に、何かかかっている。剣ではない。シンカには、見覚えがあった。