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蒼い星  作者: らんらら
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6.知らなかった世界3

「待てよ、ミンク」

「待たない」

ミンクの部屋は廊下の反対側、一番奥だ。廊下をずんずん歩くミンクに扉の前で追いついた。

「あのさ、本気でシキの言ったの信じてるのか?」

「だって、遊んでいたってシンカも言ったもん。それに、小さい時からこの町のこといろいろ話してくれたよね?酒場であった人の話とか、年上の友達のこととか。なんか、その。皆が噂してたけど、シンカは経験豊富だって」

「覚えてるんだ」

「だって、帰ってこない日とかあったよね?隣だから、シンカの部屋の明かりがつかないとすぐ分かるんだから」

「気にしてたの?」

自然とシンカの表情はほころぶ。

「!……おやすみ」

「!?って、待てって」

バン!

木の扉を軋ませてシンカが手で止めるのとミンクが勢いよく閉めるのと同時。

挟んだと思ったのかミンクが「あ」と小さく声を上げた。

「大丈夫!?」

シンカが右手を左手で覆うとごめん、痛かった?見せて、と真剣だ。

実際は音を立てたのはシンカの足で、扉が閉まるのをしっかり防いでいたのだが。

心配する顔が可愛くてシンカはうつむいた睫が長いのをじっと見ていた。

「ごめん、冷やす?ねえ、入って」

ミンクは慌てて室内の水場で布を濡らす。

どうしようか?シンカは両手とミンクの後姿を見ながらしばし考える。

ふと夜風が吹いたことに気付いて、部屋の奥、開け放たれた窓に向かった。

宿の一階の酒場は盛り上がっているようでにぎやかな歌や笑い声が聞こえる。二つの月が時折雲間に隠れながらも仲良く並んでいた。

上空は風が強いのか雲は流れるように動いていき、まるで月が夜の海を泳いでいるようにも見える。

「あれ?シンカ」

「空の上って、どんなかな」

ミンクが首をかしげながら、隣に立った。

「風が気持ちいいね」

「ああ。ね、ミンク。俺さ、大人になったら旅に出ようと思っていたんだ」

「旅?」

「そう、俺、父さんを探しにね、旅をしたかった。いろんなところに行くのが好きだし。いろんな人がいる。デイラでは皆が顔見知りで、それはそれでよかったけどさ、俺はもっと広いところに行きたかった。母さんがね、遠い、俺たちじゃいけないような遠いところにも人が生きていて、俺たちの知らないような生活をしているんだって、そういってた。行ってみたくないか?」

ふわりと甘い香りが喉元に漂う。

ミンクがシンカの腕にしがみついて、のぞき込んでいた。

「どうした?」

ミンクの瞳は大きくて、月明かりにつるんと光る。夜のしっとりした空気を吸い込んだみたいに綺麗だ。

瞬きする。

「シンカはね、どこか遠いところを見てるの。そういう気がするの」

「ミンクは、……その、一緒にいてくれないかな?俺、一人じゃ淋しいし」

「…淋しいから?」

「…違うよ。いてほしいから」

「…わかんない」

少し拗ねて尖らせる唇。見下ろすと少しだけ胸元が見える。

余計に鼓動が早くなる。


「だから、さ。ミンクだからそばにいて欲しいんだろ?」

「それだけじゃいや」

背に手を回してうつむけば目の前に小柄なミンクのおでこ。キスしてそのまま抱き寄せる。

「それだけじゃ嫌って、後何が欲しいんだよ?」

「ちゃんと……」

口を塞ぐ。

慌てて押しのけようとする手も丸ごと抱きしめる。

白い手が胸元にしがみついている、それも。切なげに身じろぎするのも。もう、どうしようもなく愛しい。

「好きだから、ミンク。ずっとそばにいたい」

ミンクは黙って頷いた。





翌朝、シンカに起こされて、シキは目がさめた。

港町は朝が早い。だからといって、俺たちまで早起きしなくたってよ。まだ暗いじゃないか。

ベッドに横たわったまま愚痴る。


「帝国軍が動く前に移動したほうがいいだろう?」

シンカはすっかり、出かける準備が済んだ様子で、剣を背負っている。やわらかい金色の

後ろ髪が剣の鞘にはさまれている。気になるのか、はずそうとするがうまくいかないらしい。

こいこい。体を起こして手招きするシキ。

近づいて、取ってとばかりに背を向けるシンカ。


不意をついてシキがシンカの首に左腕をかけてベッドに倒す。

「いてっ!」

「お前、昨日どうだったんだよ!明け方まで戻らなかったの知ってるんだぞ!」

「起きてたの」

「白状しろ」

もがくシンカを押さえつけるシキの、なんと楽しそうなことか!


「離せって。うらやましいんだろ」

「うまくいったのか?」

「俺を馬鹿にしてんのか?」

そこで、シンカがにっと笑う。余裕の笑みだ。

「なんだ、つまらん。いいよなあ、若いってさあ」

しみじみ言いながら、やっとシンカを離す。シンカは余計に絡んだ髪を撫で付けて、息を整える。

「自分だって酒場でしたい放題じゃないか」

「人聞き悪いな、お前!」

笑いながらまた組み付こうとするシキの手をさっとかわして、シンカは飛びのく。


「感謝しろよ。きっかけは俺なんだぞ」

「面白がってたくせに、何が感謝だよ」

不ぞろいな兄弟みたいな二人は、ミンクを迎えに行く。

ミンクは銀色の髪を綺麗に結って、オレンジ色の刺繍模様の入った絹のストールをちょこんと肩にかけている。シキにはミンクもまた、大人っぽくなったように見えた。


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