6.知らなかった世界2
目の前の黒い切れ長の瞳ににらまれて、シンカは目をそらす。そらした先で、今度はミンクの視線とあった。
「隠してるの?」
「え。」
「なあ、シンカ。おかしくないか?」
「なにがだよ。」
「だってよ、お前の話だと、街を破壊したのは空を飛んでた黒いものだろ。」
シンカはうなずいた。確かにそうだった。
「じゃあ、レクトたちがわざわざ、お前に案内させる必要があるのか?」
「・・・。それは、俺も知らないよ、理由なんか。」
シンカは、少しむっとして、伸びた前髪をかきあげた。
「お前、全部話してないだろ。」
シキがにらむ。
もう一度うるさそうに、金髪をくしゃくしゃする少年の手を、シキがつかんだ。
「なんだよ、放せよ。」
「お前こそ、話せ。」
強引に手を振り払って、シンカはため息をついた。
「わかったよ。何で案内させたかは、分からないけどさ。・・俺、父さんだと、思ったんだ。」
「なに?」
「・・俺、子供の頃から父さんいなくてさ。」
ミンクが傍らでうなずいた。
「俺が、三歳とか五歳とか、とにかく小さい頃に、遊んでくれたんだ。レクトが。」
「・・はあ。」
予想外の話だったためか、シキは気の抜けた表情になっている。
「あたしも、覚えてる。一緒に林で遊んだような。」
「うん。その人なんだ。けど、あの頃母さんは、あの人はお父さんじゃないのって言い張ってたし。本当のことは分からない。」
シキはコップに麦酒を注いだ。
「で、お前、確かめたのか?お父さんかどうか。」
シンカは、首を横に振った。
「そんな余裕なかったんだ。俺のこと捕まえようとするし、街は黒いのに攻撃されてたし。」
「!・・お前に、会いに来たんじゃないのか?」
「母さんには、会ったらしい。よく、分からないよ。だって、逃げようとした俺を変な武器で撃ったんだ。
お父さんが、そんなことするのかな。それに、・・デイラと一緒に、母さんを殺したんだよ?」
痛いほど握り締めていた拳に、ミンクがそっと小さな手を添えた。
シキは、目を細めた。
「お前、自分のお父さんが街を破壊したって、そう思って、言わなかったんだな。」
「!あいつは、父さんじゃないよ!」
また一口、酒を飲み込むと、黒髪の大きな男はにんまり笑った。
「うそつくなよ。お前、そう思い込もうとしてるだけだろ。本心では、お父さんだといいと思ってる。」
「そんなこと、思ってない!」
「・・どんな親でもさ、生きててくれたら嬉しいもんだろ。いないと、あえないと思ってた父親が、生きて目の前にいたら、それは嬉しいだろ。」
シンカは、黙った。
「分かる気がするな。」
ミンクが、ポツリと言った。
「生きていてくれれば。」
その大きな赤い瞳が、涙をためる。
ミンクは、両親を亡くしたばかりだ。しかも、それは、レクトがやったんだ。
シンカは目をつぶった。
どう、思っていいのか、分からなかった。
いろんな、感情がうずまいて。どれが本当の自分の気持ちなのか、よく分からない。
「ま、とにかく、探し出すしかないな。」
「うん。」
シキとミンクがうなずきあって、うつむいたままの金髪の少年を見つめた。
「会ってから、話してから決めろよ。きっとその時には、何が本当か分かるさ。」
「・・。」
うつむいたままの、シンカを横目に、シキはミンクを手招きする。
「あのな、ミンク。」
「なあに?シキ」
シキは、にやにやしている。やけに小声で、でもシンカに聞こえるようにミンクの耳元で言った。
「面白いこと聞いたんだ。シンカ、この街でかなり遊んでたんだぜ。」
「!何だよ、シキ!」
驚いてシンカが顔を上げた。
「シキは酔っ払ってるんだ!本気にするなよ、ミンク。」
シンカが睨む。
シキはにやり。
ミンクは二人を見比べながら、酒のビンにコルクを詰め、酒場から持ち出された魚の干し物をシキのほうに押しやる。
「お前のこと知ってるって、酒場の女が言ってたぜ。」
慌てるシンカ。ミンクの頬がぷくっと膨らむ。
シンカはやめろといわんばかりに、テーブルの下でシキの靴をける。
「それにな。この宿屋の娘が、ほれてるんだと。」
「俺、何にもしてないって!」
「シンカ!」
「そうか?俺は真剣に聞かれちまったぜ、一緒の女の子とはどういう関係なの?ってな。お前、ちょくちょく町の港や酒場に出入りしていたって言うじゃないか。」
シキが女口調を真似る。気持ち悪い。
「俺、知らないぞ!確かに酒場とか、遊技場とか闘犬場とか行って遊んだけどさ!」
ろくなこと調べてこないな!シキは!
「ま、色男はにくいね。歩くだけで女を泣かすってか?」
「私、もう寝る。」
ミンクが立ち上がる。
「ミンク!」
慌てて追うシンカを面白そうに見送って、シキはうまい酒を飲む。
多少は進展するんじゃないか?
想像すらも、酒と一緒につままれている。
「まあ、今を楽しめよ。レクトに出会って知る真実が、何だとしたって、今さら変えられるわけじゃないんだ。
だったら、悩んだって仕方ない。」
足を組んで、煙草に火をつける。