表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼い星  作者: らんらら
31/74

5.この国の現実5

「わしは特別なのじゃ!」

「どう、特別なの?まさか、」

「ミンク!そこまでにしておけ!」

シキが、あの怖い表情で、止めた。

「だって!」

「お前のいいたいことはもう、分かったから。みんな、伝わっているよ。」

シンカもなだめる。

「ここで、ユンイラが禁止されていようが、どんな神様を信じていようが、俺たちが干渉することはないよ。

ミンクが悪い神様なんかじゃないことくらい、承知しているし、その姿も可愛いと思うよ。」

シンカの言葉に、ミンクは照れて頬を赤くする。

「お、やるなシンカ。」

シキがからかうから、余計にミンクはおとなしくなった。大きな声を出したことが気恥ずかしいようだ。

「あの、すみません。我らも、別に、ユンイラを怖がっているわけではないのです。ただ、必要ないと思っているだけで。グラン・スーは昔の人だから、どうも過剰に反応するんです。」

村長が、詫びた。

グラン・スーはミンクの言葉がこたえたのか、黙り込んでいる。その横で、ガガンが、くりくりした瞳でミンクとグラン・スーを見比べている。

「いえ、こちらもすみませんでした。」

シンカが、ミンクの肩に手を置きながら微笑む。

村長は、ほっとしたようで、お詫びに、村で一晩休んでいってくれといった。

三人も、喜んでその好意に甘えようと決めた。


夕食をご馳走になって、三人はいい気分で割り当てられた部屋に戻る。

部屋は、木の壁に刺繍を施された布が一面に張られ、まるで、アストロードの生地職人の家にいるような気分だ。

シンカには少し懐かしい。

部屋には、先客がいた。

ガガンだ。

「ごめんね。勝手に入って。」

少女は、部屋の真ん中の、小さいテーブルの横にちょこんと座っていて、可愛らしい。

「どうしたの?お家でお母さんが心配するわよ。」

ミンクが笑う。

「大丈夫。うち、お母さんいないの。早くに死んじゃった。」

「そうか。じゃ、グラン・スーとお父さんと暮らしてるんだ?」

「うん。あのね、お母さん、ミンクと同じだった。」

酒はないかと物色していたシキも振り返った。


「あのね、グラン・スーを怒らないで欲しいの。」

「聞かせてくれるかな?ガガン。」

シンカが懐から、小さな飴玉を取り出して、ガガンに渡す。ガガンは一瞬驚いていたが、同じものを口に含むシンカやミンクを見て、おそるおそる口にしてみる。

「おいしい!」

「港町の市場で買ったんだ。白花の蜜が入っているんだ。」

「ありがとう。あたしのお母さんはね、生まれたときから、ミンクみたいに白い髪に赤い目をしていたの。

それはね、グラン・スーが、間違えてユンイラを食べちゃったからなんだ。

そのときグラン・スーのお腹にいたお母さんに、その毒が入ってしまって、それで、お母さんはあんまり長く生きられなかったの。

あたしが産まれてすぐに、死んじゃった。グラン・スーはすごく後悔しているの。

自分がユンイラを与えたために、早く死んでしまった。しかも、自分だけなかなか死なないって。」

ミンクは、見開いた目を、すでに潤ませている。

「そうだったんだ。ごめんな。俺たち知らなくてさ。」

「ごめんね。」

ミンクの瞳から涙がこぼれる。

「ううん。あたしも、今日のはグラン・スーが悪いと思うもん。あたしは、ミンクを見て、お母さんってこういう感じだったんだって、思った。うれしかったよ。」

ミンクはたまらず、少女を抱きしめた。

「最後まで言わなくてよかっただろ?」

シキがぽつりと言う。

何も言えず、うなずくミンク。

そういう姿も可愛いと、シンカは思う。

「あったぞ!んー、ちと匂いがきついが、まあ同じだろう。」

部屋の隅の棚から、シキは酒瓶らしいものを引っ張り出した。

「シキ。」

「それ臭い。」

シキをのぞいた全員が、鼻をつまむ。

「大丈夫だよ。」

コルクのふたを開ける。

「うわっ!」

シンカがあまりの匂いに声をあげた。すでに、酔ったのか頬が赤い。

「飲むなら外行けよ!」

「お前も来い。つきあえ。」

嫌がるシンカを無理やり引きずって、シキは外に出て行く。女は女同士、話も合うだろう。

鼻をつまんだまま二人を見送ったミンクは、改めて、ガガンとおしゃべりをはじめた。





「なあ、シンカ。お前、お父さんは知らないって言ったな」

集会場の外にある木のベンチに座って、シキはその、ものすごい匂いの酒を、ごくごく飲んでいる。

「……匂い、気持ち悪いよ。シキ」

「匂いはきついが味はなかなかだぞ」

しっかり肩をつかまれているので逃げ出そうにも逃げ出せない。

シキは、シンカの瞳を覗き込み、もう一度質問をする。


「お前、自分が何か特別だって知っているか?」

「うん?デイラではそんなふうにも言われていたよ」

シンカは、視線をそらす。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ