5.この国の現実3
ミンクは、この褐色の肌の少女に、なんともいえない可愛らしさを感じていた。
言葉遣いや動作は荒っぽいが、素直な表情がくるくる入れ替わる、大きな黒い瞳に、吸い寄せられるようだ。
「あたしはね、この山のもう少し向こうに行った、ほら、あっちの草原。そこの村に住んでるんだ。」
よくよく見ると、小さく家らしき影が見える。
「ガガンは一人でここまで来たの?」
「ううん。違うよ。グラン・スーと一緒」
「グラン・スー?お友達?」
たずねると、黒髪の少女は、瞳をくりくりさせて、あたりを見回す。
「ううん。お母さんのお母さん」
「お母さんの、お母さん?」
ミンクは繰り返す。そんなの聞いたことない。
「途中までそばにいたんだけど、どっかいっちゃったみたい」
「お母さんの、お母さん」
ミンクはまだ、こだわっている。
「ねえ、それより、どうしてミンクは白い髪なの?赤い眼をしてるの?」
「え、うんと、私……」
どうしよう。言ってもいいのかな?
「ガガン!そんなところで何をしているのじゃ!」
突然、しゃがれた怒鳴り声が聞こえた。
振り向くと、麻で織られた衣装をつけた、黒髪の老婆が立っている。腰には小さな籠を下げ右手に杖を持っている。
「グラン・スー」
駆け寄る少女。
シキとシンカが、いつのまにかミンクの左右を固めている。
少女は、老婆に何やら叱られている。老婆は一通り小言を並べ終えると、少女には見向きもせず、こちらに向かってきた。
「すみませんな。旅のかた。あの子が何かご迷惑をおかけしませんでしたか」
見合わせるシキとミンク。
「いえ、別に。たまたま、ウサギを焼いていたところに通りかかって、お腹がすいているというので、誘ってしまいました。
こちらこそ、すみませんでした。ご心配をおかけしてしまって」
ミンクが丁寧に話す。
老婆は、しげしげとミンクの姿を眺める。
目がよくないのか、細めたり、見開いたりしている。
「あの、俺たち・・」
言いかけたシンカをさえぎって、老婆が大声をあげた。
「誰か、来ておくれ!怪しい奴じゃ!悪神スーラの使いじゃ!」
慌てて、逃げ出そうとする老婆。ガガンを引っ張って、村のほうに逃げていく。
「何?」
あっけにとられるシンカとミンクに、シキが説明する。
「・・多分、あの村ではユンイラを忌み嫌っているんだ。
だから、ユンイラの神、スーラを悪神と呼ぶ。きっと、そういう民族なんだよ。
昔からの言い伝えか何かで、ユンイラの中毒になったものが、ちょうど今のミンクのような白い髪、赤い瞳だったって知ってるんだ」
「・・・失礼ね」
私を見て逃げたってこと?ガガンは綺麗だって言ってくれたのに。変なの。
ミンクは頬をぷくっと膨らませた。
「お出迎えだ。どうする、シンカ」
シキが、周りを遠巻きに囲んでいる村人に気付く。
「うーん。鍋、欲しいんだ」
「とっつかまるぞ」
「話して分かってもらえないかな」
ミンクが言う。
だって、別に私は悪者じゃないし。それに、ミンクはグラン・スーの存在が気になった。
「じゃ、行こう」
シンカがミンクの言いなりになって、三人の行動が決定した。
「俺は暴れるぞ?」
シキが非難がましく言う。
「いざとなったら俺だってやるよ。けど、鍋もらうまでは我慢しようよ」
シンカがなだめる。
三人は、村人におとなしくついて行った。