5.この国の現実2
「税?」
シンカは、知らなかった。
「貧しいからこんな山に追いやられる。貧しいから病気になっても薬がない。シンカ、覚えておけよ。そういう民族が聖帝国の人口の半分以上いるんだ」
「半分も?」
「だからさ、彼らはユンイラのない生活を受け入れているんだ。俺も同じだ。五歳のときに一回ユンイラを受けた。その後両親が戦争で死んで、俺にはユンイラを手に入れる金なんかなかった。いつか大気の病にかかるとしても、今生きるかどうかのときにそんなことは気にしていられない。成人して軍に入ってユンイラを受けられると分かったときにも、うれしくなんかなかった。結局、いまだに『ユンイラのしずく』を飲んでいない。あの、五歳のとき以来な。」
うっすら笑いを浮かべて、はき捨てるように告白する男を、シンカは見つめていた。
「体は大丈夫なのか?」
大気の病。それはユンイラを飲めなければ確実に体を侵す。シンカが心配そうにシキの表情をのぞく。
「大気の病は緩やかに進む。俺も三十五だからな。後数年で目が見えなくなってくるだろう。」
「それでも、ユンイラはいらないの?」
シンカにはわからない。子供の頃からあたりまえのように目の前にユンイラがあり、大人の目を盗んでは傷薬などにして遊んでいた。
政府に反発することと、ユンイラを憎むこととは違うのではないか?
「シキ、もし俺があの子の村で、ユンイラの精製方法を教えたらどうする?」
「!」
「いやな人は使わなければいい。だけど、あの子のように、小さい子が、選択の余地なく病気になるのを見過ごしていていいのかな。野生のユンイラを見分けて、精製する。そうすれば、国に操られることもないし、病も防げるじゃないか」
「俺は、いらないからな」
男は、悲しげに微笑んだ。
「シキ」
膝を抱えて考え込む。シキが、少年の頭に手を置いた。
「お前が悩むことないだろう」
「けど、人を助ける方法を知っていて、助けないのは良くないと思うんだ」
シキが病に侵されるのを、ただ、見守ることはできない。
「助けを望んでいる奴は、助けてやれ。助けてって言わない奴は、そいつが悪いんだ」
そう言って、シキはにやりと笑った。
シンカは膝に顔をうずめる。
一方でミンクのためにユンイラを求め、一方でシキはいらないという。俺は二人とも元気でいて欲しい。