4.いくつかの友情6
「山に、さ。このジ・リユリ山にはさ、今も野生のユンイラがあると思う」
「思うって、お前」
「行ったことないからさ。俺だって。でも、あるはずなんだ。ジ・リユリ山のこの地下から、あの毒素が流れ出たんだ。もっとも毒の強い地域だよ」
「そいつを採って、精製できるのか?」
「ああ。デイラではみんな、子供の頃からやってるよ。傷薬とかにしてたんだ。明日、明るくなったら行こう。ここにいても仕方ないしね」
いつのまにか眠っているミンクに、そっと自分のローブをかけてやる。
薄暗い夜の闇に、ミンクの白い肌は余計に透き通って見える。
地下を歩くうちについたのだろう、頬に埃のような汚れがついていた。
シンカは拭おうとして、自分の手を見つめた。
手も綺麗ではない。
ミンクが持っていた荷物を開けて、ごそごそと中を確認するシンカに、シキは手を伸ばした。
「なに?」
「煙草ないか?」
「あるわけないだろ」
ふーん、と残念そうに伸びをして、シキは再び自分の居場所に戻る。壁を背に、腕を組んで空を見上げた。
シンカは取り出した綺麗な布で、ミンクの頬をそっと拭いている。
「お前ら、単なる幼馴染か?」
「何だよ、単なるって」
「宿だって別の部屋だっただろ?深い仲ならそばで守ってやるもんだろ?」
シンカが言葉に詰まった。
「かわいいよなぁ?お前がのんびりしてるなら俺がいただこうかな」
「ま、待てよ!それ、ダメだよ」
「早い者勝ちだろうが」
楽しげなシキの口調にシンカは口を閉じる。
黙って、足元の土をかかとで蹴る。
「いやならさっさとしろよなぁ?」
「からかうなよ」
「アドバイスだろ?」
「今は、言えないんだ、……だから。からかうな」
シンカは傍らに横たわるミンクを見つめた。
時折、悲しそうにゆがむ表情を、あの寺院でも見た。
両親を亡くした。
幸せだったのに、一夜にしてすべて失った。
それは、レクトの仕業なのだ。
レクトが、何者なのか。
考えたくないが、もし、もし自分の父親だったら。
俺は、どうしたらいいんだろう……。
「どうした?シンカ」
「うるさい。俺もう、寝るから」
膝を抱えて顔をうずめる少年に、シキは目を細めていた。