3.聖帝と呼ばれた男 4
「こいつ、熱があるんだ。ユンイラが足りなくてさ」
誰も、何も答えない。
シンカの姿を、改めて見つめるシキ。
シキまでそんな風にみるなよな。大丈夫、外見は普通だよ。普通のはずなんだ。
「もう、言うよ。俺たちは、デイラからきたんだ。こいつはユンイラを飲まなきゃいけないのに飲んでなくて。体調悪いんだよ。だからさ、シキ。演技なんてできないし、平気でいる俺に八つ当たりするんだ。助けてやってくれよ。頼むから」
いたたまれず、ミンクを抱きしめ、顔を伏せる。
「ごめんね・・」
ミンクが小声で言うのが聞こえる。
立っているのがつらいのか、ミンクは体重を預けてくる。
シンカも一緒になって、その場に座り込む。
なんだって、そんなにうるさいんだ。デイラで生きてきたことがそんなに悪いことか?
なんで、俺たちがこんなに苦しまなきゃならない。
「・・すまん。気付かなかった。」
シキが、ミンクの額に手を当てる。
「僧侶殿、理由は説明するから、まずこの子を休ませてくれないか。」
「・・いいだろう」
ミンクの姿に気おされたのか、二人の僧侶は、すぐにうなずいた。
なにやら二人で打ち合わせすると、一人が走って、先に町に入っていく。残った一人は、
シンカの腕を引き、立ち上がらせた。
三人は町の真ん中の寺院にある、僧侶の寄宿舎に案内された。
ミンクは、シキに抱えあげられ、シンカはただ、ついていくしかない。
ミンクの声が、繰り返しシンカの脳裏に響く。シンカのほうがよっぽど変わってる!・・変わ
っている。
自覚があるだけに、少しつらい。
デイラでは、俺は特別扱いだった。そうだろう、一人だけ金の髪、蒼い瞳。彼らのよう
に、ユンイラを飲む必要もなかった。理由は知らない。
母さんが言った。「お前は、デイラの希望なんだから」
そういって、母さんは、俺にはみんなと同じ学校へも行かせなかった。母さんが、勉強を教えてくれた。
特別扱いが嫌で、俺はデイラにいるのがつまらなかった。母さんにも反発した。
だから、誰も俺のこと特別扱いしない、アストロードに入り浸った。
ユンイラの副作用を受けない、ユンイラがなくても生きていける。それは、彼らにとってはうらやましいことだ。きっと。
だけど、俺は、デイラでの普通でいたかった。
赤い瞳がよかった。
でも、そんなこと、誰にもいえない。彼らにとって俺はうらやましい存在だったから。
いつの間にか、うつむいて歩いていた。
立ち止まったシキにぶつかる。
「シンカ。どこ見てんだよ。」
「ごめん。」