3.聖帝と呼ばれた男 3
ミンクが驚く。
「うるさい、馬鹿者!」
シキが軽く突き飛ばす。よろけて、転ぶシンカ。
「シンカ!」
ミンクが駆け寄る。
「すまないが、さっさとこいつらを送り届けて、俺は故郷へ帰りたいんだ。通してくれないか」
「その娘。教えに背き、聖なる『ユンイラのしずく』を飲んだのだな。神の裁きで病にでもなったか」
薄汚れた布でぐるぐる巻きになっている少女に、少しばかり嫌味な笑みを浮かべ歩み寄る僧侶を、シンカが遮る。
シンカの手が僧侶のローブに触れた。
「きさま、汚い手で私に触れたな!」
いきなり、ローブの下からシンカのわき腹に槍を突き立てる。鞘を被せてはあるものの、鋭い痛みにシンカは息ができず、うずくまった。
「僧侶殿、すまない。さっさと連れて行く」
ミンクの手を強引に引っ張り、シキはシンカに来いと促す。
その時。
僧侶がミンクの胸元、光る首飾りに目を止めた。
「おい、その娘の首につけている」
「え?」
槍を首に突きつけられ、止まるミンク。立ち上がれずにいたシンカは、ミンクの胸元から、あの首飾りが引きちぎられるのを見上げていた。青い石がきらりと夕日を反射する。
それは!
「僧侶殿、穢れた安物です。お手が汚れます」
シキがすかさず奪い返す。
「お、……」
遅かった。ミンクが取り返そうとして身を乗り出し、顔を覆っていた布がはらりと落ちた。
「おまえは!」
恐ろしいものをみたように、後ろに下がる。同僚の男も震えている。
ミンクの銀色の髪が風にゆれる。
「なによ!私の何が悪いのよ!」
ああ、ミンクを怒らせると、後が大変なのに。
シンカは手で顔を覆った。
「私は普通なんだから!町ではみんな同じだったわ!私たちがこんな姿なのは、あんたたちのユンイラを作るためでしょ!」
「ミンク!」
シンカは慌てて、口をふさごうとする。
「放してよ!シンカのほうがよっぽど変じゃない!私たちとぜんぜん違うし、ユンイラもいらない……」
言いかけて、ミンクは我に返る。
シンカの青い瞳が、悲しそうにミンクを見つめた。
「ミンク、おい、それは」
シキがミンクの肩に手をのばす。
シンカはそっとミンクを引き寄せて、大人たちの顔を見た。
それでも、シンカは笑った。
僧侶も、シキも、今はシンカを見ている。