3.聖帝と呼ばれた男
ラツールを出て次の町ランドロまでは、あっという間だった。シキは三十五歳。この聖帝国ファシオンの隣国、工業国のダンドラの軍隊にいたらしい。そこを辞めて、今は傭兵としてファシオンの有事に備えているという。
「備えているって言ったってよ、何にも起こらなきゃ、仕事もない。たまには、誰かに恵んでもらいたくなるわけよ」
「だからって、強盗は向いてないと思うよ」
シンカは笑う。自称色男のシキは、馬鹿にするなといきがってみせる。
ミンクは呆れた様に二人を見つめている。
「なんだか、二人兄弟みたい」
「こんなおっさんの兄貴は要らないよ」
笑うシンカに、黒髪の男は軽く蹴りを入れる。
「おっさんて言うな!」
「おっさんだろ!」
けり返すシンカ。ミンクを盾にして、シンカは逃げ回る。
「もう!」
後ろをすり抜けるシンカを捕まえようとして、シキが飛び掛ろうと構えたときだ。
シンカが止まった。
「あ、城門が見えた」
街道は右に大きく曲がっていて、枯れかけた並木がまばらに立っている。乾燥しているのか、黄色い砂埃が少しの風でも巻きあがる。シンカは並木の間、砂埃の向こうに小さく見える土塀と巨大な扉を指差す。日は傾きかけていた。夕日が土色のランドロの城壁を照らす。
この季節は日が長い。疲れを感じないまま、三人は五時間近く歩きつづけていた。
それほど、シキの話す遠い国の冒険談は、ものめずらしく面白かった。デイラ以外を知らないミンクにとっては、なおさらだろう。疲れているはずなのに、話の続きをせがんだ。
「寺院の町ランドロ、か」
シキが歩みを止めた。
夕方の涼しい風が黄色い地面に溜め込んだ熱を奪って流れる。
男の髪が揺れる。風をはらんだマントが長身に似合い、シンカは目を細めた。
「何、かっこつけてるんだよ?シキ」
「ばか」下がれ、と手振りで示すシキに何かを感じ、シンカはミンクとつないでいた手を離した。
ミンクはシキとシンカの背後に隠れる。