表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼い星  作者: らんらら
10/74

2.強盗もどき 3

 ラツールは商人の町。港から運ばれたたくさんの品々が、街道が集中するこの町に集まり、ここから各地へ売られていく。

 魚屋の若旦那と別れ、ニ人はにぎやかな市場を見に行くことにした。

 ミンクはあまり気が乗らないようだった。

「でも、ほら、見たことないだろ?こういうのって」

「別に、興味ないもの」

「ええと、じゃあ。お腹すかないか?ほら、いい匂いするだろ?」

香ばしい魚を焼く匂いがしている。近くに料理屋があるのだ。

「別に……」

「だめ!お腹すいたから俺、来いよ。な?」

料理屋まで歩いてみると、どうやらそこは魚しか売っていない。

ミンクが顔をしかめたので、じゃあ、肉を売っているところを探そうとまた二人は歩き出す。

店先のきれいな石や見たことのない花、動物や町並みに、少しでもミンクが喜んでくれたら。

元気を取り戻してくれたら。そうしたら、俺は少し安心できる。

そう願えば願うほどシンカはニコニコと笑い、逆にミンクは元気をなくしていくようだった。


店先できれいな花をサービスで髪につけてもらっても、小さなサルがかわいく首をかしげてミンクの手に乗ろうとしても。

笑わない。


市場の通りを一つ過ぎたところで、ミンクが言った。

「私、疲れちゃった」

確かに長く馬車に揺られていたしこの町は気温が高いから、体の弱いミンクにはつらいのだろう。

「そうか。じゃ、宿に行こう」

「どこにあるの?」

「さっき、若旦那に聞いといた。二、三軒あるからどこか空いてると思うよ」

宿の方向を目指しながら、シンカは微笑んだ。

「私、一人の部屋がいいな」

「ああ。分かってるよ」まあ、当然か。と落ち込みつつも、シンカはあと少しがんばってみることにした。

 

「あ、そうだ。ミンク、これ。忘れてた。」

シンカは荷物の中からあの首飾りを出した。一瞬レクトの顔を思い出すが、シンカは頭を小さく振って残像を追い払う。

あいつは関係ない、これでミンクが喜んでくれるなら。


「なあに?」

いつもなら、「わーきれい!」とか言うのにさ。

それでも、それを手にとって見つめるミンクの目は、嬉しそうでもあった。


「ほら、誕生日、過ぎちゃったけど」

「そうか。そうだったね。ありがとう」

やっと、笑った。

ミンクの笑顔に無理がないことに安心し、首にかけてやる。


思った以上に似合っていた。

よかった。

本当によかった。

シンカは少しばかり水っぽくなった瞳で少女を見つめている。

「シンカ?」

「あ、なんでもないよ、埃っぽいな、目に入った」

月並みなごまかし方をしながら、笑ってみせる。

人ごみの中立ち止まる二人。周囲は子ども二人に興味などなく、それぞれの方向へ進んでいく。

これだけ遠い町まできたのに、俺たちの気持ちは未だに動けずにいる。あのときのデイラに、あの惨劇の跡地に留まっているかのようだ。

それでも、ミンクが笑ってくれれば、少しだけ、時間が経ったのだと感じられた。俺の行動は、間違ってない。



「おい」

振り向くと雑踏の中、あの強盗の男が立っていた。

「おっさん!まだついてきてたの?」

「亡霊!」

ミンクが慌ててシンカの背に隠れた。

「なんだよ、亡霊って」

男は怪訝な顔で眉をひそめ、ミンクを睨んだ。

シンカは笑いをこらえながらも、肩にしがみつくミンクの手を感じて嬉しくなる。護っていると実感できる。

それはシンカを強くする。

素早く男を観察し、腰の剣にも男の構えにも戦意を表すものはないことを知る。

「何か用?」

「お前ら、コドモだけでどこ行くつもりなんだ?家出じゃないだろうな」

シンカとミンクは顔を見合わせた。

「おっさんは家出なの?」

「まじめに答えろ」

シンカは肩をすくめた。

「俺たち、聖都に向かってる。会いたい人がいるんだ」

デイラのことは、言わないほうがいい。あの時の罪悪感がシンカの口を閉ざす。

あの時、レクトに気を許した。だから、デイラは。

どちらにしろ、普通の人々がデイラの存在を知っているはずがなかった。

「俺はシキ。お前らがどうしてもって言うなら、聖都まで連れて行ってやってもいいぞ」

黒髪の男は、白い歯をのぞかせて豪快に笑う。

「は?」

何を言い出すのか、この男は。あきれるシンカの横で、ミンクが言った。

「一緒に来たいならそういえばいいのに」

素直すぎるミンクの言葉は痛いところをついた。


そうか、ミンクはあの強盗騒ぎを知らなかったな。

ちらりとミンクと男を見比べて、シンカはうなずいた。

「うん、いいよ。俺はシンカ。この子はミンク。俺たち幼馴染なんだ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ