第五話 自己紹介と膨らみと
俺の意識が覚醒して10分も経ってないのに、俺は今全力で走らされている。無論、リーナによってだ。
結構綺麗な町並みだ。中世でここまでだったら結構いい方なんじゃないか?最も、ここがどれ程の文明を持ってるかはわからないのだが。
「ねぇ!もっと速く走れないの?」
「はぁ、はぁ、無理、こ、これが限界……ってかなんでそんなに急いでるんだよ!」
リーナのスピードは恐ろしく速い。結構体格差あると思うんだけどな。アランってやつは体力がなかったのか?
「なに言ってんのよ!アラン!魔法も使わないで、スピードが出るわけないじゃない!」
「って言われても魔法ってどうやって使うんだよー!!」
俺の悲痛な叫びはリーナとの距離によって阻まれる。なんとかリーナを目から離さずに必死で追いかけた。
「おーい!速く来てー!」
「わかってる。わかってるってー」
面接場で見た俺とリーナの家に着いた。辛い。
「もー!遅いわね。……って、そうよね!もしかして記憶ないから魔法使えないものね」
「ああ!悪かったな魔法使えなくてよ」
気づくのが遅いが、許す。理由?そんなの決まりきってる。
「可愛いからだ!!!」(心の声)のつもりだったが声に出てしまった。
「なに?いきなり「可愛いからだ!!!」って叫んで?記憶無くしたついでに情緒も無くしたの?」
「それは、っはぁ、あまりにも……はぁはぁ、辛辣過ぎ、るだろ、お、リーナ」
「まぁまぁ、息まで切らして、そこまでして反論したいのかしら?」
「なんか最初と印象ちがくね?」
とか、くだらない談義をしてる。最も、呼吸が落ち着いてないから、ほんとは黙っていたいのだが。
……突っ込みだけは息を切らしていないという隠れた突っ込みの才能には誰も気づかなかった。
「あ!お兄ちゃんだ」
「……おにぃお帰りリーナさんも」
「あっ、もう帰ったの?」
「うっひょーい!!かぁわうぃー!!」(心の声)今回は声に出てないはず。本当だ?……大丈夫なのか?周りの反応がないから大丈夫なのだろう。
俺の家と思わしき所から、三人の美女が出てきた。妹二人とお姉さん一人だろうか?
「お、おう帰ったけど……」
「ねぇねぇ、聞いて聞いて!!アランが記憶無くしたんだってー!!」
いきなりそれ言います?しかも元気良く言いましたね!?
妹?たちきょとんとしてるよ、きょとんって。
あーもうなんかスゲー申し訳ない気持ちになってきた。
「「「えぇーー!!!」」」
百点満点の叫びが響き渡る。
「ほんとにわかんないの?病気なの?」
「……ほらわたしの名前言って」
「お姉ちゃんが、あーくんを優しく包みこんであげるから大丈夫よ。すぐ思い出すから。ほら、こっちにいらっしゃい」
いらっしゃいとか言ってる癖に飛び込んできた。
ぼふぅっ、ばいんっ、ぐりぐり。
「あっ!おねーちゃんずるいわたしもー」
ぎゅー、ぺったん、くりくり。
「……おにぃ、私もいる」
ぎゅっ、むにゅ、すりすり
……幸せだ。……幸せだ。
眼福……どころの問題じゃない。四方を塞ぐ、大、中、小。
……ああ、夢か夢なのか?いや違う。異世界だ。ただの異世界にきて、ただ幸せなだけだ。うん。
だが俺は平常心である。身内を襲うなんてことはしない。うん。平常心。平常心とりあえず離れてもらおう。
「お前ら……ちょっと離れて欲しいんだが……」
惜しいことをした。今度またやってもらうか。うん。そうしよう。ってかこのアランって奴相当姉妹に好かれていたんだな。
「そうだよ!それどころじゃないんだよ。アランの記憶がないんだよ!……ほらっ、ちゃんと自己紹介する!」
「っと、あーくんひとついい?ほんとに記憶を忘れたの?私とあんなことや、こんなこともしておいて?可愛い妹二人とお姉ちゃんを見捨てるの?」
「その、あんなこと、そんなことは、ちょっとわかんないなぁ。あと、記憶を無くしたのも事実だと思う。ごめんな。皆のことは記憶にないんだよ」
とりあえず、妹二人お姉さん一人で正解らしい。
「そう……これもドルンのせいだって言うの?」
「……ドルン許さない」
「あのー、ドルンって黒い魔術士の方でよろしいんですかね?」
「ええ、そうよ。黒魔術士ドルン。事件は知ってるようね」
「おう、なんとなくだけど知ってるよ。この症状って治療法とかないの?」
「今のところ治療法は見つかってないわ」
「そうか……」
残念そうなふりをしてるが内心安心している。
もし治療法があって、それをされたらばれるかも知れない。ばれたらいろいろ不味いからな。
ボロを出さないようにせねば。
「まぁここで悩んでても仕方ないっしょー!わたしはむしろ、今のアランの方が好きだよ」
今のアランの方が好き……か、そう言ってくれるのはありがたいな。元々のアランがどういう奴か知らないからなんとも言えないけど。
「じゃあ、あらためて自己紹介するわね。わたしの名前はリーナよこれからもよろしくねアラン」
「よ、よろしく」
紅の髮と目は、変わらず太陽の光を浴びて輝いてる。
肩までかかる髪の毛はしっかり手入れがされており、見てるものを魅了する。
服装は白ベースに赤線が入り込んでいるワンピースだ。
リーナが着ることによってまるで職人さんが作った高級品のように見える。
実際に職人さんが作ったのかも知れないが。
「……わたしも……する。わたしはミニモ。おにぃの妹……本当に覚えてないの?」
「ああ、すまん」
「……そう」
鑑定したところ歳は12だった。12にしては少し小さい位の、華奢な少女だ。髮は銀髪だが目はオッドアイの黄色と赤だ。
同年代の女の子と比べると……胸がでかい。うん。
さっきまで寝てたのか寝間着を着たままで、大きな熊のぬいぐるみを抱いている。妹属性出しすぎですね。胸を除いて。いや、いいんですよ大きくても。
「そんじゃ、次はわたしね。わたしはメルモよ。よろしくねおにーちゃん」
「ああ、よろしくメルモ」
歳は……12……ん?ああ、そうか、なんか似過ぎてるてると思ったら双子なのか?
「なぁ、二人ってもしかして双子?」
「……うん」「ええ、そうよ」
「……わたしが妹」
やっぱりな、流石、双子と言われれば……いや言われなくてもわかる人にはわかるだろう。
いやぁ、双子の姉の方も銀髪で赤と黄色のオッドアイだが、左右で色が違う。妹は左が赤だが姉は右が赤だ。髪の毛は妹がロングのストレートなのに対して、こちらはポニーテールで髮をまとめている。こちらも寝起きだったらしいが、ぬいぐるみは抱いていない。
胸は……残念無念……胸だけに。だがぺったんも嫌いな訳じゃない。
「はいはーい!可愛い妹たちに変わってアランの唯一無二の最強のお姉ちゃんのこのわたしが自己紹介をしてあげましょう」
「わたしはアイリスよ。アランとあんなことやこんなこともしちゃうか、ん、け、い!!」
「こらっ、おねーちゃん嘘言わないの!!」
突っ込んだメルモは心なしか頬が紅潮している気がした。さっきから過剰なほどスキンシップを取ってくる、一番上の俺より年上の姉。俺と同じ黒髪で、髪型はーショート。セーターらしきものをきているだけなのでその膨らんでいるものの大きさが良く目立つ。プルン。あ、また揺れた。
「もー、いいじゃない!!」
「えーと、俺も自己紹介した方がいいのか?」
「「「それは要らない!!」」」
え!?……普通に悲しい。
横で、「まぁお兄ちゃんのこと今更知ってもね」とか言う声が聞こえてきた。そういうことか。もう、俺のことは知り尽くしてるって言うのね。もっともおれが入る前のアランの子とだろうが。
「とりあえず、自己紹介も終わったし……」
「正体を見せてもらおうかしら。偽物のアラン?」
…………は?
プルン。プルン。
アランもといフミヤは変態じゃないよ健全だよ。
「変態だね。ふみちゃん」
「ちげーよ!?」