王女様、考える
このままで良いのだろうか。
アルテッサは書斎の長椅子に寝転がりながら、横目でローテーブルに置かれた紙束を見た。
紙には孤児院の少女の情報とジリアスのこれまでの素行について、詳しく書かれている。
王室お抱えの情報部隊に頼んだものだ。
頼んで、ものの数分で書類の束を渡された。
ちょっとびっくりしたが、アルテッサもジリアスも国にとって無視できない要人だ。
監視は当然。
当然ではあるのだけれど……。
一挙手一投足記されているのには目眩がした。
多分、情報部隊の書庫の棚にはジリアスの項目の隣にアルテッサの項目もあることだろう。
息苦しくなる。
でも、そのおかげでアルテッサはジリアスのことを知ることができる。
ため息が出る。
書類の内容はあの時、柵の前で少女が話していたことを裏づけること以外は書かれてなかった。
ジリアスの行っていたことは通常の慰問と何ら変わりはない。
でも……。
ジリアスの言葉を思い出す。
『それは……僕が差し出せないものだ』
ジリアスとあの少女を引き離したとしても。
ジリアスの心は何故、私のものにならないんだろう。
アルテッサは床で、もそもそと動いていたフィリックを抱き上げ、お腹の上に置いた。
「ねぇフィリック。私がもし王女じゃなくて、ジリアスがもし他国の王子じゃなかったら、ジリアスは私を好きになってくれたかな」
「はぁ?お前が王女じゃなくて、あいつが王子じゃなかったら、お前らは会ってなかっただろ?」
「そ、そうだけど。もしもだよ、もしも、何のしがらみもない、どちらが上とか下とか無い関係だったら」
フィリックを持ち上げて、その鼻と自分の鼻をくっつける。
「俺、あいつと喋ったことねぇし。あいつがお前の何がダメなのか知らねぇよ」
「そうだけど……」
アルテッサはまた、フィリックをお腹に戻し、その長い耳を軽く握った。
「私もジリアスもウサギだったら良かったのに」
「……言っておくけど俺、精霊だからな」
考えることは他にもある。
最近アルテッサに公妾を勧めてくる貴族が増えた。
公妾とは文字通り公的に認められた妾、アルテッサの場合は男妾だ。
多分目端が利く貴族はジリアスのことに気づいている可能性がある。
頭の痛くなる話だった。
「あんな奴さっさと破棄だっ!俺の方が頼りになる良いオスだっ!」
寝そべったアルテッサの顔のそばまで来て、フィリックがアルテッサに言う。
「そうね、フィリックが人間だったら、絶対頼りになったわね」
フィリックは毛艶の良い凛々しいウサギだ。
絶対美人だろうな。
そんなとりとめの無いことを考えながら、アルテッサはうとうととした。