王女様、問う
「ねぇ、隠してることがあるでしょ」
「そりゃあ、あるよ。君にあげる今年の誕生日プレゼントはまだ秘密だしね」
あれからずっと、悶々と考えていたけれど、気持ちが晴れることはなく、ついにアルテッサはジリアスに聞いた。
天気の良い日、昼食を共にした時だった。
「ううん、そうじゃなくて。もっと大事なこと、隠してるでしょ」
「君の誕生日より大事なことってあるのかい?」
なかなかジリアスはアルテッサの知りたい答えをくれない。
「私、知ってるの。あなたに私以外の好きな人がいるって」
その言葉を聞いて、ジリアスは息を呑んだ。
それが答えなのだと、アルテッサは確信した。
でも、言葉を待つ。
ジリアスの口から聞きたかったのだ。
「いたとして何かが変わるの? 僕は君の所有物だ。君の望むものを差し出すだけだ」
目と目が合う。
「私が望むものすべて?」
「僕が差し出せるものすべて」
「じゃあ、あなたの心は?」
ジリアスの瞳が僅かに揺らぐ。
「それは……」
アルテッサは言葉を待った。
自分が酷なことをしているのは分かっている。
心なんて、一番自分の思い通りにならないものだって、分かってる。
アルテッサだってジリアスを嫌いになれと言われて、嫌いになれるわけがない。
それと同じ。
あの少女に寄り添うジリアスの心を無理矢理引き剥がして、アルテッサのものにするなんて、できるのだろうか……。
それでも願ってしまう。
私を、選んで。
「それは……僕が差し出せないものだ」
……言葉なんて待つんじゃなかった。
気がついたときにはもう遅かった。
パンッ! と乾いた音が部屋に響く。
給仕をしていた侍女たちにどよめきが起こった。
テーブルに身を乗り出した姿勢のまま、アルテッサは自分の右手を見た。
ジリアスと自分だけの昼食だったので今日は手袋をしていない。
手がジンッと熱く、痛い。
アルテッサは呆然としたまま、向かいに座るジリアスを見た。
ジリアスの頬は腫れていた。
自分は今、何をした。
心が痛い。
「僕の心は僕自身でも、残念ながら言うことを聞いてくれない」
手を見つめる。
自分は今、ジリアスに手を上げたの?
「僕たちの結婚は政略結婚だ」
手が震える。
自分がジリアスを叩いたの?
「政略結婚に互いの気持ちは関係ない」
反対の手で押さえても震えは止まらない。
ねぇ、なんでジリアスは私が暴力を奮ったのに何も言わないの?
「それでも僕は君に従う。それが僕の立場だ」
ジリアスが立ち上がった。
アルテッサの震える右手を両手で取り、跪く。
ジリアスに触れられ、やっと右手の震えが止まった。
漆黒の瞳がアルテッサの奥底を見つめる。
「君が望むならもう、僕は彼女に会わないよ」
そう言ってジリアスは、小首を傾げて微笑んだ後、アルテッサの右手の甲にキスをした。




