王女様、後をつける
そうだ! 尾行しよう!
次にジリアスが出かけることがあったら後を追おう。
その機会は直ぐにやってきた。
侍女たちの情報網を駆使し
「どうやらジリアス様は今日の昼、お出かけするそうよ」
という情報を得たのだ。
これはチャンスだ!
アルテッサは街に出かけることをお父様にだけ伝え、街娘が着るような質素なドレスに、顔が隠れるようケープを被って王宮を出た。
フィリックも一緒に連れて行く。
一国の王女がお忍びなんて衛兵たちが黙っていなさそうなものだが、何故かアルテッサの国ではその辺の警備はザルだった。
国王に一言出かける旨を伝えれば、あっさりと門から出ていける。
さすがに目立たない裏門だけど。
その時必ず言われるのが
「フィリックは連れて行くようにね」
だった。
お父様は喋るだけのウサギに何の信頼を寄せているのだろう。
部屋に蜘蛛が出ても、無視して新鮮な野菜に噛り付いているだけなのに。
めっちゃデカイ蜘蛛だったのに。
ジリアスは王宮を出ると、辻馬車に乗った。
すぐさまアルテッサも辻馬車を捕まえる。
「前の馬車を追ってください!」
小説でよく見かける台詞だが、まさか自分が使う日が来るとは思わなかった。
二頭の馬車は走り続け、街の郊外の一つの建物まで来た。
ジリアスの馬車が入口で止まる。
アルテッサはジリアスから見えないよう、馬車を建物の裏側で止めてもらった。
その建物はアルテッサも知っている施設だった。
孤児院。
一度ジリアスと慰問に訪れたことがある。
柵越しに中を覗く。
馬車から降りたジリアスは、すぐに子どもたちに囲まれた。
孤児で他人にはなかなか心を開かない子どもたちが笑顔でジリアスを出迎えている。
慕われるほど、ここに頻繁に来ているのだろう。
ジリアスは子どもたちの頭を撫でながらクッキーを配り始めた。
そして女の子たちには赤いベルベットのリボンも一緒に配っている。
アルテッサはそれを見て安心した。
あのクッキーもリボンも孤児院の子どもたちのためのものだったのか。
しかし……
建物の中から子どもたちに囲まれて一人の少女が出てきた。
少女とジリアスは何事か話し、そして二人で笑いあった。
そのうちジリアスが懐から何かを少女に渡す。
よく見るとそれは、ドレスの布地選びをした時、ジリアスが目にとめていた花柄のレースのリボンだった。
王宮に帰ると、アルテッサは書斎でぼーっとした。
目の前の机には舞踏会で来ていくドレスのデザイン画が何枚も置いてある。
先日のデザイナーが持ってきたものだ。
可愛い娘だったな。
ジリアスはああいう娘が好みなのね。
それより早くドレスのデザインを選ばなくちゃ。
今日はまだまだ片付けなければならないことがたくさんある。
デザインをぼーっと見つめる。
フィリックが何も言わずにアルテッサの膝にぴょんと、飛び乗ってきた。
ふさふさの毛の背中に顔を埋める。
あったかくて気持ちが良い。
ドレスのデザインはフワフワのフリルのついた可愛らしいものにした。
それはアルテッサよりもあの孤児院の少女に似合いそうなドレスだった。