王女様と白ウサギの秘密
「おいおい、しっかりしてくれよ」
今日も今日とて公務が終わり自室に入った途端、足の力が抜けてへたり込んでしまった。
重たいドレスも窮屈な靴もさっさと脱いで、ベッドの枕に突っ伏する。
痛いくらいに結った髪をほどき、刺さった髪飾りをぽいっと放る。
「あーあー……ドレスがシワだらけじゃねえか。侍女たちに後で怒られるぞ。髪飾りも床に散らばって。後で踏んでギャーって叫んでも自業自得だからな」
同室の住人の小言にうんざりして、アルテッサは枕で耳を塞いだ。
今日はジリアスに会えなかった。
朝から会議、会議、会議の連続で忙しい1日だったのだ。
アルテッサはまだ王女だったけど将来のために政に参加している。
と言っても、勉強のため、末席に座りみんなの話を聞いているだけなのだけど。
聞いてるだけでも、知らない知識ばっかりで疲れるものなのだ。
「寝るんだったら、ちゃんと湯浴みしてこいよ」
ガーター付きの白ストッキングが足を締めつけてきて、だるい。
アルテッサはベッドに顔を擦りつけたまま、のろのろと足に貼りついたストッキングを引っ張って剥がす。
「ほら、やることやって」
「ぅるっさい!!」
ごちゃごちゃ言ってる方向にストッキングを投げつけた。
「うわっ」
白ウサギの耳にストッキングが引っかかる。
「ちょっ!前見えねぇ!」
「私はもう疲れたの!全部フィリックがやってよ!」
アルテッサ相手に喋ってたのは白ウサギのフィリックだった。
ウサギは喋れないって?
フィリックはウサギではない。
ウサギの外見をした精霊だった。
アルテッサの国の王族は生まれるとすぐに精霊王様から必ず1人1柱、精霊を授けられ護られる。
フィリックはアルテッサに授けられた守護精霊だ。
アルテッサの家族は公爵家から嫁入りしたお母様以外みんな精霊がそばについている。
お父様はねずみの。上の妹は鷹、下の妹は虎、弟は馬だ。
しかし守護精霊とはいえ、フィリックたち精霊にどんな力があるのかアルテッサは知らない。
アルテッサの国は平和だったから。
ただ、人間のように言葉を理解し喋れる、そして寿命が長いのは確かだった。
生まれた時から今までフィリックとはいつも一緒だった。
ジリアスも幼馴染だったけど、フィリックもアルテッサにとっては大切な幼馴染だった。
ジリアスに、会いたいな。
疲れた頭で考える。
一緒にいると自分を見て欲しくてもやもやする。
離れていると誰といるのか気になってもやもやする。
「あいつのこと考えてるのか?」
フィリックがアルテッサの元に鼻をひくひくさせながら寄ってきた。
「あんなオスより俺の方が良いオスだぞ」
アルテッサの手に鼻をすりすり擦りつける。
「あんな覇気がなくてお前を不安にさせる奴なんてさっさと婚約破棄しちゃえよ」
アルテッサは乱暴にフィリックの頭を撫でた。
「何よりもお前はストレスが溜まると撫で方が荒くなる。俺の毛がすり減って禿げる前に、お前はさっさと元気になれ」
ぶっきらぼうな言い方だったけど、フィリックなりに励ましているつもりらしい。
アルテッサは思う存分撫で回した後、最後だけ、ぽんと軽くフィリックに触れた。
ありがとう、フィリック。