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王女様、すべてをぶつける

「好き、なの」


 言った途端、喉をつかえるような違和感が感情の奔流に押し流され、アルテッサは堰を切ったように今までの思いをジリアスにぶつけていた。


「本当に好きなの」


 隣に座ったジリアスに向かい、縋りつく。

 みっともないのはわかってる。でも、どうしても止められらない。


「子供の頃から、ずっと。あなたが私のことを思ってなくても好きなの。私以外の女の子を好きだと知っても好きなの。もう、辛いから、止めたいのに、どうしても止められない」


 ジリアスの胸に顔を埋める。

 服を握った手に力が入る。

 耳鳴りがする。自分の発した声が大きいのか小さいのか分からない。

 

 私の声はジリアスに届いている?

 ……もう、どうでもいい。

 想いの丈をすべて並べ立てる。


「辛くて、悲しくて、苦しくて、全然楽しくないのに、好きで、いつだってジリアスのことを気がつけば考えていて、好きで、こんな自分が馬鹿みたいで、どうしたらいいか分からなくて、あのコのことだってどっか知らないところに行っちゃえとか、あのコは悪くないのはわかってるのに、嫌なの、どんどんドロドロした感情が出てきて、死ねばいいのにとか、嫌なのにこんなの全然ダメなのに、憎くて、そのうちジリアスのことも憎くなって、でも姿を見れば苦しいけどやっぱり好きで、好きすぎて一緒に居たくないと思ったり、姿が見えないと不安になったり、嫌われたくないから笑顔でいたいのに、どうしても涙が出てきて、好きで好きで大好きで」


 呼吸が乱れる。

 身体が熱い。


「いっそどこかに閉じ込めてしまおうか、とか、そういえば浮気しないように妾妃の足を切った王様がいたなぁとか思ったり、それくらい好きで、大好きで、どうしたらいいの? ねぇ、これだけの思いを私はどこに持っていけばいいの? 消えないの、あなたを好きという気持ちが、消したいのにもう、いらないのに。こんなの全然いらない! 消えればいい、好きなんて気持ち! 消えてよ、もう……いや、なの……お願い消えて……あなたごと、ぜんぶ……」


「うん……」


 ジリアスの手がアルテッサの背に回された。

 ふわりと壊れ物でも抱くように優しく撫でられて、さらにぼろぼろと大粒の涙があふれてきた。


「でも……やっぱり……一緒にいたい……ずっとずっと、好きだから……」

「うん……」


 アルテッサの好きな静かで落ち着いた声が幼子をあやすように囁く。


「好き、大好き、愛してます」


 すべてを吐き出した。

 吐き出して、ふと思った。

 沢山の感情がアルテッサの中にあったけれど、伝えたい言葉はこれだけだ。

 

 好き、大好き、愛してます


 そして、それを伝えた相手がどうするかはもう、相手次第。

 すべての思いを言葉にしたことで、何となくだけど分かった気がした。


 私ができることはここまで。

 私にこれだけの思いがあったと同じにジリアスにだって、たくさんの思いがある。

 本当は自分のことを同じくらい思ってくれたらいいと思うけど。


 アルテッサは掴んでいたジリアスの服を離した。


 それから……

 涙で化粧が落ちて、ひどい顔になってるだろうな、と思った。

 お腹すいたな、とも。

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