王女様、告白する
舞踏会の明かりが遠い。
中庭の中でも小さな部類に入るそこは、庭の広さに相応しい小さな噴水と小さなガゼボがあった。
魔法で灯されたランタンが辺りを照らす。
アルテッサはガゼボのベンチに座り、待った。
ランタンの光を受け、仄暗く光る噴水の水。
遠くで聞こえる談笑と音楽が、まるで違う世界の出来事のようだ。
このまま世界に切り離されて、何にも煩わされないで生きられたら。
そう思うものの、そんなこと無理だと分かっている自分もいて、アルテッサは俯いた。
ジリアスが早く来て欲しいような、欲しくないような。
夜風にあたり身体が冷えてきたところでジリアスが来た。
アルテッサが小さなくしゃみを一つすると、ジリアスが自分の着ていたコートを脱いでアルテッサの肩にかけようとする。
それをアルテッサは丁重に断った。
「本当に、彼のことが好きなんだね」
アルテッサは何も言えなかった。
婚約を破棄するならここで、嘘でも肯定する方が良い。
しかし声が掠れて言うべき言葉が出てこない。頷けばいいのに身体が悴んで動かない。
「まぁ、裏切ったのは僕だしね」
庭の光を背にしているため、ジリアスの表情は見えなかった。
「君が、嫌いだったわけじゃないんだ」
突然のジリアスの告白にアルテッサは身を震わせた。
「ただ……僕は……人より弱かった」
俯いたまま。隣に座る気配だけを感じとる。
「もっと君を憎めていれば。利用する貪欲さがあれば」
言われるたびに鋭利な刃物で刺されるようだった。
「もしくは君もこの国も受け入れる度量があれば……でも、どちらも持ち合わせてはいなかった」
耳を塞ぐこともできずただただ、茫然と、聞く。
「中途半端に憎んで、状況に甘んじて」
噴水の音に合わせるかのように静かに淡々と。
「断罪は覚悟している」
「……れは……」
内から捻り出してやっと、掠れたカラカラの声が出た。
「そ……れは、逃げたいから? この国の人質という立場から」
「いいや」
「次期女王の婚約者から」
「いいや」
「…………私から……」
言うたびに零れ落ちる、ジリアスの本心を聞く勇気。
こんなことを言いたいわけじゃない。
「……いいや」
ジリアスの指がアルテッサの頬を撫でる。
いつの間にか溢れていた涙で、ジリアスの人差し指が濡れた。
触れた指が熱かった。
その指だけが現実味を帯びていて、だから、すがるがままに。
「あ、あのね……好き……」
それは言うつもりのなかった気持ち。
「今でも……好き、なの」
寒いのに、吐息が熱い。




