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王女様、自覚する

 アルテッサはふわふわでもこもこなフィリックの胸元に顔をうずめた。

 虎のリリーテ姐さんもふわふわだったがフィリックの毛はそれよりさらに毛が細く柔らかい。

 全身で感じるふんわりとした毛。

 至福だ。


「あのー、そろそろ本題に戻って良いですかね」


 アルテッサの体にフィリックの声が響いた。

 埋めていた顔を上げる。

 いつまでも現実逃避しているわけにはいかないことは分かっている。

 お腹の中にずしりと重い鉛を入れられたような心地がした。


「終わらせてくれるって、魔法で解決でもしてくれるの?」


 魔法でジリアスの気持ちを変えてくれるとか。

 アルテッサからこのどろどろと時間が経てば経つほど腐っていく感情を、綺麗さっぱり消してくれるとか。


「まさか。さっきも言ったけどオレができるのは後押ししてやることだけ」


 フィリックの言葉にアルテッサは項垂れた。

 もふもふと触っていた胸元にこぶしを、ことんとぶつける。


「あのなぁ、たかだか男のことでいちいちオレを頼ってたら国なんて治められねぇだろ」


 そんなこと言われても実際辛い。


 毎日寝ようと思ってもジリアスのことが頭から離れず眠れない。

 胃は常にキリキリと痛い。

 些細なことで怒りたくなる。

 どうしようもなく悲しくなって、ともすればジリアスにすがりつきたくなる。

 いっそ死んだ方がましなんじゃないかと思ってしまう。


「失恋は病じゃないんだ。終わりにしたいと思うなら、いつかは切り捨てて前に進まないと」


 フィリックがそのもふもふな前足で、アルテッサの不安そうな顔を撫でた。


「し、しつれん?」


 失恋。それはアルテッサには思ってもみない言葉だった。


「なに?自覚なかったの?」


 どうやっても手に入らない。

 相手の気持ちが自分にない。

 物語では知っていたけれど。


 そうか、自分は失恋したのか。


「国がどうとか、婚約がどうとかの前に人を好きになって思いが通じなくて破れるのなら、それはどこにだってある失恋だ」


 頭をもふもふな前足で撫でられた。


「例え村の田畑でだろうが街の路地の片隅だろうが王宮の豪華なシャンデリアの下であろうがどこにだってある恋の終焉だ。誰にだって起こることだ」


 もふもふな両足で頬をびゅっと潰される。


「誰にでも起こることなら女王になるアルテッサだって自力で乗り越えなければ」


 アルテッサの心は揺れた。

 こんなに辛いのに。

 乗り越えるとか、できるのだろうか。


「いま、オレの毛皮に触っててどう思った?」

「……気持ちいいなあって。至福だなって」

「その時、あいつのこと考えたか?」


 アルテッサは首を振った。


「オレを不審者だと思って声を上げた時、どう思った?」

「……焦った。何とかしないと!って」

「なら、お前は大丈夫だ。本当に辛くて死んじゃいたいと思うなら、あんなに大きな声出して、なりふり構わず足搔いたりしないだろ?」


 無言で頷く。


「じゃあ乗り越えられるさ。オレがついてるし」


 もう一度、ちょっと躊躇った後、頷く。


「だけどあいつの顔面ぶっ叩くのはお前自身だ。じゃないと意味がない。思いっきり叩いてやれ」


 う、うーん。それは頷き辛いなぁ。


「何なら首絞めてやれ。精霊さまが許す!」


 それも頷き辛い。

 でも、少しお腹の鉛が軽くなった気がした。


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