白ウサギ、聞く
ジリアスは小さな噴水の前、ガゼボのベンチに座った。
フィリックも少々不本意ではあるが、その隣にちょこんと座る。
王宮の中庭であるこの場所は広大だったが、精巧で秀麗な建物の壁で四方を囲まれていた。
見上げれば空が狭い。
「最初は外が見たかったんだ」
ジリアスが口を開いた。
「僕は王宮の中しか知らなかったから。それと、やっぱりここは息苦しくて」
噴水から流れる水音が途切れることなく聞こえる。
「常に監視され、王女殿下の婚約者に相応しいか評価されている。それだけじゃない。いつ婚約者の座を蹴落としてやろうかと有力貴族の子息の目も昼夜問わず光っている」
この中庭は王宮の其処彼処にあるたくさんの庭と変わらない。いくつもある中の一つだ。
それでも、どんな人に見られてもいいよう、花は計算されて年中何某か咲いているよう植えられていた。
綺麗にいつも整備されていた。
「知ってる?アルテッサの婚約者は僕1人だけど、婚約者候補は37人いるんだ」
何でもないことのようにジリアスは話す。
「僕が婚約者になれているのは、この国の内政にあまり関わりのない、貴族の勢力図に影響を及ぼさないちっぽけな他国の王子だからということとアルテッサのお気に入りだからだ」
一つ息を吐く。
「僕が何をしようがこの国にとっては些細なことだ。人質といったって、僕の国がそう思いたがっているだけなんだよ。この国はいつでも僕の国みたいな小国、片手で捻り潰せる。彼らが欲しいのは世継ぎのための面倒のない子種だ」
ジリアスがフィリックを見つめ、手を差し出してきた。
「もし、アルテッサとの間に子が出来たら、僕はお払い箱で殺されたり、体良く遠方へ追いやられたかもね」
フィリックはジリアスの手を無視することもできたけれど、しぶしぶ、顎を乗せてやる。
「だから、その前に外が見たくて一度訪れたことのあった孤児院に行ったんだ。慰問なら良いかと思って。孤児院にはいろんな子がいた。自分の境遇を不満に思う子。敢えて明るく振舞おうとする子。いろんな子がいたけどどの子も必死で状況に抗い、戦ってた。でも……」
そこでジリアスは言葉を詰まらせた。
「僕は知らなくても良いことを知ってしまったんだろうね。いつの間にかそんな子たちの1人に惹かれていた」
ジリアスがフィリックの頭を撫でる。
フィリックは大人しく撫でられるがままでいた。
「知らなければ良かった……でも最期に知れて良かった」




