白ウサギと王子様
フィリックはすべてを見ていた。
見ていたけれど、アルテッサがジリアスに背を向けたとき追わなかった。
かわりにジリアスを見上げる。
追うべきは本来こいつの役目だ。
睨みつける。
と、思いがけず目が合った。
フィリックはちょっとだけ狼狽し、誤魔化すように口をもごもごさせた。
「追わないのか、って言いたそうだね」
いつもアルテッサに向けるような、柔らかな微笑みとは違った苦笑いを浮かべ、ジリアスはフィリックに語りかけた。
あれ?オレの考えてたこと何でわかった?
「追ったところで、今のアルテッサには僕が何を言おうと負担にしかならないんじゃないかな」
それでも追うべきだし、アルテッサは望んでいるだろ!
「アルテッサは追って欲しいのかもしれないね」
まただ。
こいつ、オレが考えていることが分かるのか?
フィリックはアルテッサを前にした時のように声を出して喋っていない。
不思議に思いながら後ろ足だけで立ち上がる。
「ああ、もしかして何で思ってることが分かったのか、とか考えてる?……フフッ、誰だって思うようなことを呟いてみただけなんだけど」
それにしてもウサギに話しかけるとか可笑しくないか?
「君はアルテッサのウサギだしね。何か特別なウサギだろうから、話しかけても大丈夫かと思ったんだ」
ぐぬぬ、 バレてる。でも、お前には喋ったりしないぞっ!
「それに、たまにアルテッサが君に話しかけてるのを見てたんだ。アルテッサとは、もう長い間一緒だけど、君とも随分長い間柄になるね」
だからってお前なんか親しくしてやらねぇぞ!
フィリックは前足を地面につけ、そっぽを向く。
しかし、その場から去ることはしない。
「さてウサギくん、君も僕を裏切り者と罵るために、ご主人様と去らないでここにいるのかな」
ジリアスがしゃがみ込み、フィリックと目線を合わせた。
「裏切り者であることは否定しないよ。本当のことだからね」
お前の立場でよく言うよ。
フィリックはブッと鼻を鳴らした。
「フフッ、色々と文句がありそうだね。そうだな、僕も誰かと少し話したいと思ってたところなんだ。君さえよければ付き合ってくれるかな」
耳をぴくぴくと、動かしながら考える。
えー?どうしよっかなーぁ。
「まぁ、聞いて楽しい話ではないし、唯の痴れ者の言い訳でしかない。きみが憤慨しても仕方ないことなんだけどね」
言いながらジリアスは立ち上がり歩き出した。
ジリアスが足を向けた先には、確か小さな噴水とガゼボがあったはずだ。
おいおい、オレの返事は待たないのかよ。
自分が喋らないことを棚に上げてフィリックは心の中で呟く。
どんどんジリアスとの距離が開いて、慌ててフィリックは走った。
ついてくるフィリックにジリアスが笑む。
「僕は当の昔に疲れてしまったんだよ。もう、国なんてどうでも良いと思うくらいに」




