王女様、強請る
「ジリアス、何だか久しぶりに会う気がするわ」
顔を上げて微笑む。
しっかりとジリアスを見つめる。
他のことは考えない。
彼だけを見る。
「そうかな……仕事、忙しそうだね」
「そうね……でも、ひと段落したところよ」
お互い、何かを探り合うような微妙な空気が流れる。
会話が続かない。
「ねぇ、これから庭を散歩でもしようかと思っていたところなの。付き合ってくださるかしら?」
「喜んで」
ジリアスはいつものように微笑んだ。
その笑みの理由を探っては駄目。
アルテッサはジリアスに手を差し出す。
ジリアスはその手を取り自分の腕へと絡めた。
二人並んで歩き出す。
顔を合わせる必要がなくなってホッとした。
そしてホッとした自分に驚く。
前はどんなときでも顔を見るのは嬉しかったのに。
近くの扉から庭へと出る。
暖かな陽の光が差したのに、体はまだ冷たい。
絡めた腕のぬくもりに縋るようにアルテッサはジリアスに寄りかかった。
「最近疲れてるみたいだね」
「そう見える?」
実際疲れてる。
日々の眠りは浅く、アルテッサの目の下にはクマができていた。
そのクマもどうでもいいや、と思ってしまうくらい、心も疲れていた。
「ジリアスは?最近どう?」
「まぁ、いつも通りかな」
再び、会話が途切れる。
気まずい。
今までどうやって会話を続けていたかしら。
とても自然に考えずできてたはずなのに、それができない。
庭の花と花の間を蝶が飛んでる。
どこかで雲雀の声が聞こえる。
「ねぇ」
アルテッサは唐突に口を開いた。
「ジリアス……キスして」
顔は見れなかった。
また、あの悲しそうな顔をされたらその場で崩れてしまいそうだった。
目を閉じ、ジリアスの方に顔を向ける。
「……王女殿下の仰せのままに」
頬に手を添えられ、ジリアスが近づく気配がした。
何故だろう。
拒絶されるのは怖いのに、大好きな人にキスしてもらえるはずなのにドキドキしない。
唇と唇が触れるか触れないか。
アルテッサはトンっと軽くジリアスの胸を押して、体を離した。
「今のはちょっとした冗談よ……ごめんなさい、困らせちゃったわね」
顔は合わせず笑う。
口がやたらと強張るけれど、ちゃんと笑えているだろうか。
「疲れたから戻るわね」
アルテッサはそれきりジリアスに背を向けて足早に立ち去った。
ジリアスとずっとそばにいたフィリックをおいて。




