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王女様、恋う

 アルテッサは小さい頃、ジリアスと自分が対等なのだと思っていた。


 まだ妹や弟たちは幼すぎたという事もあったが、王宮ではアルテッサと同じ年頃の子どもがジリアスくらいしかいなかった。

 ともに学び、ともに遊び。

 常に忙しく国務に励む両親と食事をすることは少なく、ほとんどがジリアスと一緒だった。


 ジリアスは子供の頃から口数が少なく、嫌と言わない子どもだった。

 アルテッサにはそれが不満だった。

 だからジリアスのことをずっと観察していた。ジリアスの仕草、癖、好み……そこから読み取れる感情は絶対逃さない。

 そのうち彼の僅かな動作で彼の気持ちがわかるようになり、それが自分だけが知る秘密のようで、彼を独占しているようで、心が浮き立った。


 そうするとまた、不満が出てきた。

 ジリアスはずっとアルテッサに対して敬語だったのだ。

 それが二人の距離を遠ざけているようで、アルテッサは悲しかった。

 だからジリアスに言った。


「敬語はやめて?」


 始めのうち、ジリアスは遠慮がちだった。

 俯き加減に、本当に良いのだろうかと、どもりながら。

 でも次第にジリアスの敬語は無くなっていった。


 私が言えばジリアスは変わってくれる。


 ますますアルテッサの心は歓喜に打ち震えた。


 ジリアスは私だけのもの。


 子どもながらに気づいてしまった。

 対等な関係を望みながらも、無自覚に肌で感じとる優位性。

 対等であると思い込むことで増す、独占欲の愉悦。


 それはアルテッサが無自覚に育ててしまった仄暗いトゲ。

 ジリアスと一緒に居れて嬉しいとか、会話できて楽しいという純粋な恋心の裏に隠された影だった。


 そしてそれは朱塗りの笛で気づいてしまった後も、刺さったまま抜けることはなかった。


 恋が先か独占欲が先か、アルテッサには分からない。


 でも一つ。

 確かに言えるのは、もう、ジリアスと一緒にいても心の底から沸き立つような喜びはないということ。


「アルテッサ?」


 いつも会うときは呼びかけられる前にアルテッサはジリアスに気がついた。

 いつも見ていたから。

 姿を見つければドキドキした。


 それが声をかけられるまで気がつかなかった。

 会った瞬間、嬉しさよりも会いたくないという気持ちの方が強かった。


 アルテッサは溢れて来そうになる涙をこらえながら、ジリアスのもとへ歩いて行った。

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