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王女様、悩む

 アルテッサは目の前でニヤニヤ笑いを浮かべている男に苛立っていた。

 男は、さもオークの首でも取ったかのように得意満面の顔だ。

 それがさらにアルテッサをイライラさせた。


 アルテッサの膝にはフィリック。

 今朝方帰ってきたのだ。

 フィリックの毛をぎゅっと掴む。


 アルテッサと男がいるのは王宮の謁見室だった。

 二人の間の床には青い映写珠。そこから、ある映像が浮かび上がっている。


 映像ではジリアスとあの孤児院の少女が笑い合っていた。


 孤児院の少女の髪にリボンはない。

 この映像はアルテッサが孤児院を訪れた時よりも前のものなのだろう。

 王室情報部隊からもジリアスが孤児院へ行ったという知らせは来ていない。


 男はアルテッサの国の伯爵だった。

 伯爵は青い映写珠を携え、「婚約者の秘密を知っていますよ」と言ってきた。


 ジリアスの情報を流すことで褒美を貰おうとしたのか、はたまた婚約者の不祥事を盾に強請ろうとしたのか。


 いずれにせよジリアスと少女のことが知られてしまった。

 噂程度ならまだ、うやむやにできたのに映写珠という証拠まであるとそうはいかない。

 関係の有無に関わらず、ジリアスには何らかの罰を与えなければならなくなった。

 それも婚約者であるアルテッサが。


 いっそこの伯爵の口封じでもしてしまおうかしら。

 ああ、今ここにムチがあったらこの男をしばき回したい。


 公妾の勧めがあったことからも、他の貴族たちは暗黙の了解として目を瞑って、何事もなかったかのように振舞っていてくれたのに。


「このことは後々考えます。今は混乱を避けるため黙っていてはもらえませんか」


 結局、長い長い沈黙の後、アルテッサはそれだけ男に伝えた。

 男は頷く。

 その場はどうにか切り抜けた。




「でもさ、何もなかったのかもしれないけど、周りからはそういう風に見られていて、実際付け上がられる弱点になってるわけだろ?」


 書斎に戻る中庭に面した廊下で、フィリックは言った。


「それにもう、お前らの関係はオレには歪んで見える」


 そんなことは分かってる。


「これからどうするんだ?」


 アルテッサの国と貴族と隣国と。

 どうすれば納得してくれるのだろう。


 政治と国の威光とジリアスの国と。

 どうすれば守れるのだろう。


 そして何よりアルテッサとジリアス。

 二人のためにはどうすれば最善の道なのか。


 あの孤児院の少女を、国外追放すれば良いのか。

 ジリアスを断罪して、ジリアスの国に賠償を求めれば良いのか。

 その場合のジリアスに対する彼の国の評価はどうなるのか。


 選択を迫られる。

 外はいい天気でぽかぽかとした陽気だというのに、アルテッサは日陰に囚われて体の芯から冷えるようだった。


「アルテッサ?」


 しばらくその場に佇んでいると声をかけてくる者がいた。

 ジリアスだ。

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