王女様、虎をもふる
「やーねぇ。そんな奴、平手なんて生ぬるいわよ。グーでパンチ。私なら絶対パンチだわぁ」
いつもはフィリックと二人……一人と一匹? の夜寝る前の時間だが、今日はフィリックが出かけてしまったため妹の守護精霊である虎のリリーテがアルテッサの寝室に来ていた。
「妹の守護があるのだからいいよ」と遠慮したら「たまには喋りましょうよ。女子トークよ! 恋バナよ!!」と、がうがう、その鋭い牙を見せながら言うものだから、圧倒されて押し切られてしまった。
グーでパンチかぁ……。
妹たちなら背中に跨って歩けそうなくらい大きな虎の、アルテッサより大きな前足をじっと見つめる。
爪は今、仕舞われている。今はね。
女子とーく、とやらでジリアスとのことを話していたわけだが、虎の精霊であるリリーテ姐さんには「男って馬鹿よねー!」で一蹴されてしまった。
「まぁ、さらにそれに絆される女も馬鹿なんだけど!」
なんか、リリーテ姐さんの恋愛遍歴が知りたい。
艶のある黄色と黒の縞の毛皮を持つリリーテ姐さんは、悠然と床に寝そべっている。
アルテッサはそのリリーテ姐さんの懐に飛び込んだ。
少し硬いが弾力があり暖かい毛に包まれる。
「あらあら、甘えんぼさんねぇ」
ぐるる、と喉を鳴らし、柔らかな肉球で頭をなでられる。
母性の塊だ。
暫くそうやって撫でられる。
撫でられる度に最近の鬱屈とした感情が溶かされるようで、アルテッサは微睡んだ。
「眠い? 今は良いけど寝るときはちゃんとベッドで寝なさいね。私と一緒に寝ると、私、夢でウサギを食べる夢見てガブッと嚙っちゃうかもしれないから」
野生の塊でもあった。
「これから私、上手くやっていけるかしら」
ジリアスが自分のそばにいてくれる。
でも、彼の気持ちはアルテッサのそばにはない。
今まで通りに接することができるだろうか。
「それは、なるようにしかならないわね。恋は一人ではできないから」
「人間って面倒くさい」
「そうね。動物ならその場で愛し合ってさっさと子ども作っちゃえば良いだけだものね」
リリーテの言葉にアルテッサは起き上がった。
「そ、そそ、その場で愛し合うって! 子どもって……」
「何、驚いてるのよ。そういうモンでしょ? あんたのとこのウサギみたいな種族なんて年中繁殖期なんだから」
「えっ? そうなの?!」
「気をつけなさいよ?」
ねずみは子沢山でオスメス一緒にさせておくとすぐ増えると聞いていたが、ウサギもだったのか!
と、そこでアルテッサはフィリックをはじめ、たくさんのウサギに囲まれる図を想像した。
フィリックの子どもや孫やひ孫や玄孫、たくさんの仔ウサギたち。
絶対可愛い。もふもふパラダイスだ。
増えすぎるのは困るけど少しくらいなら良いなぁ。
想像してたら口元が自然に緩み、ふふふっと笑ってしまった。
久しぶりに笑った次の日、アルテッサの元に厄介な問題を携えて一人の貴族が謁見を申し出てきた。
次期女王様の悩みは尽きない。