白ウサギ、出かける
王宮の中庭に出て、白ウサギのフィリックはとある仲間を探していた。
いつもこの時間にならいるはずなんだけどなぁ。
空をきょろきょろと見渡していると、ザァッと羽ばたく音がして、フィリックのすぐ上を何が駆け抜けて行く。
ウサギの両耳が風で流された。
「ちょっ!あぶなっ!」
大きな何かがフィリック目掛けて滑空してくる。
鷹だ。
キラリと鋭い鉤爪が光る。
「だぁっ!」
逃げるようにジャンプ。
フィリックのいたところを鷹が猛スピードで通過していく。
「おいっ!イグリット!冗談でもやめろって!!」
「なんだよぉ〜、そんな怒んなって。ほんの挨拶だろぉ?」
バサリと一度羽ばたき、イグリットと呼ばれた鷹がフィリックの元へと舞い降りた。
「空から無抵抗な奴に攻撃とか、何が挨拶だ!」
「えー?悔しいのぉ?フィリックも飛べばいいじゃん。同じ1羽とか数える仲間じゃないかぁ〜」
「確かにウサギは1羽って数えるけど飛べねぇの!」
「あはは〜……で、何?珍しいじゃない。オレに会いに来るなんて」
くちばしで羽をひと撫でした後、イグリットはフィリックに聞いた。
「ああ、ちょっとな。ちょっと……里帰りでもしようかと思ってな」
「こーんな時期にぃ?」
「こんな時期だから、かな」
鼻をふんふんさせながら鷹を見上げるウサギ。
「いいのぉ?アルテッサ王女様、今大変なんじゃないの?」
「まぁな。だからお前らに守護と、その、話し相手になってやって欲しくて」
「ああ、そう。じゃあ、オレじゃなくてリリーテが適任かな」
イグリットが首をぐぐっと曲げて、クリッと丸い目をパチクリと瞬かせる。
「そうかもしれない。頼めるかな。妹二人の守護はお前でってことになると思うけど」
「大丈夫じゃない?あのおチビちゃんたちいつも一緒だし。守護はし易いと思う〜」
「悪いな」
「良いって〜。フィリックがなんか頼むのって珍しいし。これ、1貸しで良いのかなぁ〜」
「う、貸しかぁ。まぁ、仕方ないか」
ギューっと目を瞑るフィリック。渋い顔だ。
「ただし、ウサギの肉が食べたいとかいう貸しの返し方は無しな」
「ほ〜い。どんなことで返してもらおうかなぁ〜」
イグリットがばさばさと羽を動かした。
それを横目にフィリックが背を向ける。
ウサギの周囲の空気が陽炎のようにゆらゆら揺れた。
「もう行くのぉ?」
「ああ、早いほうが良いからな。じゃあ、よろしく頼むな」
「あ〜い。精霊王様によろしくね〜」
「お〜う」
気の抜けた声に少しつられつつ、フィリックは異界への門を呼び出した。
ゆらゆらと揺れる空気に毛むくじゃらの手を掲げ、何かを掴む動作をする。
すると青銅色の巨大な門がフィリックの目の前に現れた。
ウサギが小さな手で扉を開ける動作をすると、重たそうな門もゆっくりと開いていく。
ある程度開いたところでフィリックはぴょんぴょこ跳ねて中へと入って行った。
「いってらっしゃ〜い」
門はフィリックが完全に入るとギギギっと音をたてて閉まって、何事もなかったように消えた。
「さぁーて、リリーテに声かけて来よっとぉ」