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王女様、気がつく

 幼馴染の婚約者の様子が可笑しいことに気がついたのは、定期的に開催される舞踏会の王女専用の控えの間でのことだった。


「ジリアス?」


 彼の顔を覗き込み、繋いでいた手をぎゅっと握る。ちょっと強めに。


「ああ、ごめん、アルテッサ。さぁ、行こうか」


 心ここにあらずという感じ。

 けれどジリアスはすぐにいつもの優しい笑顔になり、アルテッサをリードして会場へと歩き出した。


 違和感はたったそれだけだった。

 いつもと同じように華やかな会場の中、二人でワルツを踊り、周囲から賞賛を浴びて、王女とその婚約者らしくにこやかに挨拶をする。

 しかし勘のいいアルテッサは、ジリアスに何かあったのだと、すぐに察した。

 赤子の時から一緒なのだ。

 彼のことならすぐにわかる。


 ジリアスが私を見ていない。

 あの『ごめん』は何に謝ったのかしらね。

 思わず出そうになったため息を飲み込んで、その場は笑顔で乗り切る。


 だけどやっぱりモヤモヤは残ったので、その日は早々に適当な理由をつけて自室に戻った。

 ジリアスは不思議そうな顔をして「体調でも悪いの?」と聞いてきたけど、「お前のせいだよ」と悪態をつくことなく退出できたのは、次期女王となる身としては、上出来だったと思う。

 ……そう思うことでちょっと自分を鼓舞する。


 自分は良く頑張った!

 王女の威厳は保たれた!

 今日は何とか王族の務めは果たせた!

 アルテッサ素敵! アルテッサ最高!!

 いつも必ず言ってくれる「今日もカワイイね」って言葉も、ドレスに対する褒め言葉もなかったけど、ジリアスは隣で笑っていてくれた!

 それで充分。充分ですから! ……じゅうぶんだよね……。


 それでもやっぱり心は不安定で、自室のドアを開けてすぐ、アルテッサは自分の可愛い白ウサギを探した。


「フィリック……フィリックぅぅ……」


 白ウサギはご主人様のいつもと違う様子に危機感を感じたのか、ベッドの隅っこに逃げた。

 アルテッサはお構いなしにウサギのフィリックを抱き上げる。


「フィリック……お前にもそっぽ向かれたら、私、立ち直れない……」


 王女様はその晩、嫌がって逃げる白ウサギをぎゅっと抱きしめ、白いもふもふの背中に顔を埋めて眠りについた。


 婚約者がもしかしたら、私以外の女の子を好きになったかもしれない。

 それはまだ勘でしかなかったけれど、心を乱される出来事だった。


 でも、考えるのは明日から。

 明日色々考えよう。

 今は眠って、英気を養う。

 頑張るのは明日から。


 夢の中ではウサギのフィリックと、曇りのない笑みのジリアスとアルテッサで一緒に歌って踊っていた。


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