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初期練習作(短編)

量りつける

掲載日:2015/07/03

 大きな天秤に、ゆっくりと砂糖をスプーンで載せて、

0.001グラムの差も生じないように丁寧に量る。

1袋当たり、きっちり100グラムにならなければならない。

砂糖1粒でも取りこぼしてはならないのだ。

上司が大目に見てくれたら話は別だが。

天使はちらりと、後ろの白い髭の生えたおじいさんを見やる。

白い髭のおじいさんは、下界では神さまと呼ばれ、敬われているらしい。

今は鏡を覗き込んで、自慢の長い髭を大事にカールさせているようだ。

天使はすぐさま、砂糖粒の1つを懐に滑り込ませた。

神さまは気づかず髭をなでている。

しめしめ、良くやった。天使はにやりとほくそ笑む。

そしてそ知らぬ顔で、元の業務に戻った。

一つ、またひとつ、正確に量りに載せてゆく。

神さまがこちらを見やった。

天使がきちんと働いていることを確認して、満足そうな様子で、

次は髭にさらさらヘアワックス(ハードタイプ)を揉み込み始めた。

天使はさらに1粒の砂糖を袖口に滑り込ませる。

ワックスの表示を見て使用量を確認していたので、

もちろん神さまは気づかなかった。

天使は全ての砂糖を量り終えて、仕事を終える。

丁寧におじぎをして、その場を離れた。

後ろからねぎらいの言葉は聞こえてこなかった。


 その昔、霊界全てを巻き込んだ世界大戦の収束後、

天界が非常に混乱した時代があった。

誰も彼もが飢えて、物資も足りなかった。

その当時、砂糖は貴重品で、闇市での値段も半端なかった。

買い物客の皆が砂糖を欲しがっていた。

今でも高価なものには変わりがない。

ちなみに、砂糖は下界で、人間たちの魂として生まれ変わる。

1粒がそのまま人間の魂になってしまうのだ。

しかし、いくら貴重品とはいえ、1粒1粒には大した重さが無い。

私たちには、料理に使う権利と、家族、

特に我等が子どもたちの為に美味しい料理を作る義務がある。

天使はため息をついた。台所が火の車なのだ。

戦後いくら経っても、物資の値段は下がりそうもなかった。

我々は、いったい何の為に働いているのだろう。

景気が悪いのは、きっと政治家が悪いせいだ。

天使は家族の待つ家に向かった。


 その頃神さまは、砂糖の粒を確かめていた。

「今日は34粒足りなくなっておる……まったくあいつめ」

きっちりばれていた。

「本来なら停職なのだが、あいつには思うところがある。

今日のところは許してやろう」

神さまはくつろいだように伸びをした。

「まあ、明日になったら分かるだろう」

神さまは、アフターファイブのお稽古事に出かけることにした。


 翌日、天界の役所が慌ただしくなっていた。

どうやら泥棒が発生したらしい。

「先輩、砂糖粒が34粒足りません!」

「何!?すると、また鼠のしわざか!

またあの国の人口減少に歯止めが利かなくなるな」

納品した砂糖と、実際の砂糖の量が違う。

あの天使が出勤してきて、この騒動を見てしまった。

そ知らぬふりをするが、動揺は隠せない。

天使はさっさと仕事場の納品センターに向かった。


 納品センターでは、神さまがじっと待機している。

天使はなんだかバツが悪くなった。

軽く無言で会釈して、上目遣いに神さまを見やる。

お互いに、じっと見つめあう。

「おはよう。今日も頼むよ」

神さまは事もなげにそう言うと、鏡に向かい始めた。

天使は内心ほっとしながら、いつもの天秤に向かう。

今日は盗む気にならなかった。

いつもより真面目に仕事を終えて帰宅した。


 神さまが腹を抱えて笑っている。

あの天秤の横で、砂糖を舐めながら。

「真面目なやつよのう……

それだから億年ヒラ社員なんじゃ」

神さまは不気味な笑い声を立てた。

みるみるうちに、どす黒い悪魔に変わっていく。

「ここは天界なんかじゃない。

すべての存在が自己を主張する世界なのだ。

どっちみち、社畜であるアイツに知るすべはないがね」

悪魔は、張り巡らされた天界の幻影を指で小突き、消えてしまった。

後に残るのは大きな天秤のみ。

いつかここで、最後の審判があるのだろう。

その頃には、人間も少しは良くなっているだろうか。

ここは、罪深い魂が送り込まれてくる場所なのだ。

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