第三話~直感~
その日は何もない平凡な一日で終わるはずだった…
そう、“だった”ッす。
ついに待ちに待ったときがきたと自分の直感がビンビン伝えてくるッす。そう、何かが起こるとね。
案外、自分の直感はバカにできないもんで、これまでいろんな世界に転生してきたッすけど、直感に従った方が良い結果を残せたことが多いッす。むしろ、直感を疑って痛い目に見たことも多いッすからね。
こう、何かが起こるって感じた場合、本当に起こるから自分でも怖く感じる時があるッすけどね。
今のところ周囲に変化は感じない。新作の原稿を書く手を一時止めてまで周囲を見渡したッすけど、いつもの文芸部の光景が広がっているだけみたいッすね。
海馬先輩がバカやって、海馬先輩の幼馴染である杉田美鈴先輩がそれを突っ込み、文芸部部長である瀬田明日香部長がそれをいさめる。我関せずを貫くもう一人の文芸部員で、自分と同学年でもあるある豊島未来ちゃんが黙々と部室の隅で読書に耽っている。
いつもと変わらないそんな光景を見ながら原稿を書くのに戻る振りをしながら体内の魔力を練り上げるッす。
この世界には魔力や超能力などは実在しない架空のモノって事になってるみたいッすけど、自分はこれまでの転生で本物に触れてきて、実際に極めたと自信を持って言えるレベルで行使できる存在にまで至ったことも何度かあるッす。
さすがに身体能力や身体に覚えこませた経験までは引き継げなかったッすけど、今まで培ってきた英知とも言える記憶と膨大な魔力、そして記憶の中にのみ存在する力を転生先の身体に何度も何度も覚えこまさせてきた経験は色あせずに残っているッす。
この世界でも身体をある程度一人で動かせるようになってから今まで、自分の身体にもっとも適した体捌きや、魔力のコントロールなどなど、訓練を続けてきているッすからね、一般人である海馬先輩たちに悟られずに魔力を練るくらいは朝飯前ってもんすからね。
そして練った魔力で発動させるのは探知の魔法ッすね。
まぁ、周囲で魔法や超能力などの異能の力によって発生した現象はないか、それ以外に異変は発生していないか、などを調べる魔法ッすね。
ふむふむ、今のところは何も……ってなんすかこれ、急に異質な魔力が部室全体を覆ったッす。
「ん?お、おい何だよこれは」
「ま、魔方陣!?」
「み、みんな落ち着いて!」
部室の床全体に青白い光を放つ魔方陣が出現し、海馬先輩たちが騒ぎ始めてるッすね。こんな時でも何も喋らず、周囲を冷静に観察してる未来ちゃんには脱帽するッすけど、今は自分もそれどころじゃないッす。
この魔方陣、転移用の魔方陣ッすね。しかも世界間をつなぐタイプで、どうやらこの魔方陣の上に居る生物を術者側の世界に召喚する魔方陣のようッす。
行先や目的の算出に時間がかかるッすから、結果が出る前に召喚されてしまうッす。だったら行先だけでも……
視界の端で海馬先輩から順番に青い光に包まれて粒子になって一人一人姿を消していくッす。どうやら向こうの世界に召喚されていったようッす。自分の手足も徐々に光に包まれていくッす……っと、行先が分かったッす。
え、この行先って、まさか…
ひときわ強烈な光が魔方陣から放たれ、自分の視界も青く染まって、何も見えなくなった。