プロローグ2~再誕~
まぶしい……
目を焼くような強烈な光に眩暈にも似たものを感じながら、単純な感想をいだく。
……あれから何度目だろうか?
聖杯は正しくも間違ったやり方で私の願いを叶えた。
“輪廻転生”
旅の中でライトが語ってくれた、生き物が死んでしまっても、魂のみが別の生き物として生まれ変わるという、彼の世界の宗教の考え方。
本来は記憶も経験も、その罪でさえ全てを洗い流し、まったく新しい存在へと生まれ変わるそうだが、彼の世界には記憶も経験ももったまま、チートと呼ばれる力を持って異世界に生まれ変わる物語が数多く存在しており、ライトも大好きだったと語っていた。
まさに今の私はライトの言うような記憶と経験を引き継ぐ転生を繰り返している。
ある生では冒険者になり、迷宮と呼ばれる遺跡から様々な古代の遺産を掘り起こすことに熱中していた。そんな中をのちに革命王と呼ばれた亡国の王子が力を貸してほしいと訪ねてきた。
ある生では魔法使いとして、森の中にこもって魔法の研究に没頭する毎日を送っていた。そんな中をのちに救国王と讃えられる滅びの危機に瀕していた小国の王が知恵を貸してほしいと訪ねてきた。
ある生では騎士となり、軍神と讃えられた天才に指揮され他国と戦った。
ある生では王として、英雄を支援した。
ある生では暗殺者に……
ある生では剣士で……
ある生では学生を……
ある生では……
ある生では……
最初の生であった聖女ブリジットの経験した冒険がかすむ程の冒険をした生もあった。悲しい別れに涙したことも、苦痛に悲鳴をあげた生もある。
しかし、どの生でも必ず、英雄や勇者といった世界に愛されし、世界の中心人物たちと出会い、言葉を交わし、彼らの生きざまに触れることができた。
残念なのは同じ世界に転生できないこと……
後世で彼らがどう語り継がれていくのか知ることができないこと……
多くの経験をした。聖女ブリジットとしての生だけでは経験できないことだ。老衰するまで生きた世界もあれば、年端もいかぬ子供として死んだ世界もある。男として生まれた世界もあった。
さすがに鍛えた肉体までは次の生に持っていくことができないが、それでも自身の肉体を鍛える楽しみを考えれば我慢できる程度の不自由だ。
むしろ虚弱で脆弱で、旅の間もへばってしまって何度も仲間に迷惑をかけてしまった聖女ブリジットの二の舞にならないようにと思えば必死にもなる。
そして、新たな生が始まる。
そっと目蓋を開く。
頼りない小さな生まれたばかりの自身の両手と、両親と思われる男女が見えた。
銀色の髪に空色の瞳をした慈愛に満ちた表情で私を見下ろす女性
黒髪黒眼で笑顔が抑えられないといった表情で私の顔を覗く男性
まだ首が座っていないようなので、目だけを動かして周囲を見渡す。
白いシーツに包まれた自分の身体。
高く白い天井。
母親と思われる銀髪の女性が座っているのはパイプベッドというものだったはず。
高度な文明を確かに感じるこの部屋の隅には姿見が置かれている。
そこに移っているのは赤ん坊用のベッドに寝かされた赤ん坊。
白に近い空色の髪に色素の薄い紅色の瞳の女の赤ん坊。
聖女ブリジットから引き継がれている私の身体的特徴。
どうやらこれが私のようだ。
なかなか文明は高そうなこの世界で、どんな出会いと冒険が待っているのだろうか……
未来を夢想しながら、私は再び目蓋を閉じた。