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プロローグ~悠久の旅路の始まり~


荒れ果てた魔王城の中、広大な広さを誇る玉座の間で、二人の男が剣をぶつけ合いながら駆け巡る。


一人は罅割れた黒い鎧を身にまとった、三メートルもの巨漢、魔王ヴァールミリオンであり、

漆黒のオーラをまとわせた魔剣をもう一人の男に向かって振り下ろす。


もう一人の男、勇者ライトは、血に染まった黒いタンクトップの覗く砕けた黄金の鎧を身にまとい、

純白の光を放つ聖剣を携え、地に倒れ伏す仲間たちを背に守りながら、

ヴァールミリオンの剣戟を受け止め、魔剣もろとも、その巨体を切り裂く。


「おのれぇ、勇者ライトぉおおおお!!」


切り裂かれたヴァールミリオンの身体から黒い瘴気が放たれ、

雄たけびを上げながらながらライトに向かって鋭い爪を生やした手を伸ばす。


「終わりだぁ! ヴァールミリオンッ!」


その手をかわし、ライトは聖剣の一撃を額に叩き込む。


「ぐぅおぉうにぃいっ!?」


断末魔の叫びとともにヴァールミリオンの巨体が完全に地に沈むのを見守りながら、

私は興奮を上手く隠せているかを気にしていた。


これぞ、英雄!


これぞ、勇者!


ライトが聖剣を天高く掲げ、勝利の雄たけびを上げるのを見ながらも、

痛みに苛まれながらも傷ついた自分の身体を起こして、何とか立ち上がる。


周りを見れば私同様にライトの仲間たちが傷に顔をしかめながらも、

それでも魔王討伐の喜びに笑みを浮かべてライトに向かって歩き出していく。


私も一緒にライトの元へと歩み寄ろうと、手に持つ聖杖で身体を支えながら一歩踏み出した。


あぁ、これで全てが終わった。


長く辛い旅も終わる。   ……終わってしまう。


思えば今まで、いろんなことがあった。


勇者として異世界、彼の故国ニホンから召喚されたライトと一緒に私たちの冒険は始まった。


生まれてから一度も出たことのなかった王都。


この世界の常識を教えるはずが、ライト以上に世間知らずだった私は何度も迷惑をかけてしまった。


初めて見る景色、初めて知る人々の営み。


この旅の出なければ知ることのできなかった、様々な事柄に何度歓声を上げたことか。


そしてライトや仲間たちとの冒険は何より私の心を躍らせた。


とくにライトの活躍を見て、世界の中心になる人物とはこういう人間なのだと考えさせられた。


そんな仲間たちとの、ライトとの旅が終わる……


喜ばしいことなのに、胸に感じる寂しさに、   ……物足りなさに、


私の足がとまる。


ふと、玉座の後ろに何か光るものがあることに気が付いた。


玉座の後ろが外れて、何かが飛び出しているようだ。


玉座の中にヴァールミリオンは財宝を隠していたのか?


とも思ったのだが、どうやら黄金でできた杯のように見える。


聖杯っ!


あらゆる願いを一つだけ叶えると伝えられ、神代の時代より、

人類にもしものことがあった際に使うよう残された聖遺物。人類に残された切り札の一つ。


神殿より何者かに盗まれたと聞いていたが、魔王が犯人だったようだ。


……幸いなことにライトも仲間たちも誰も気が付いていない。


今の立ち位置からすると私の位置が玉座にもっとも近い。


そして私は走り出した。


仲間たちが突然あらぬ方向に走り出した私に気が付き、疑問の声を投げかけてくるが、もう遅い。


私はもう一度っ! いや、何度でも見るのだ。


まだ見ぬ世界を、景色を、人並みを、そして世界の中心となる人物たちをっ!


「ブリジットォオオオ!」


ライトが私の名を呼ぶ声が耳に届くと同時に私の手が聖杯に触れ、

聖杯が私の願いを叶えるための光を放つのを目にしてから、瞳を閉じる。


私はおそらく、人類に対する最大の裏切り者として歴史書に名を残すだろう。


私欲に駆られ自身の願いを叶えて消えていった裏切り者。


だから何だっ!


また、この旅に出る前の生活に戻るくらいなら汚名くらいどうってことないっ!


自分のことをよく知らない人間に、知ろうとしなかった人間に、とやかく言われる筋合いはないっ!


ライトや仲間たちに悪く思われることも、離れ離れになることも胸が痛む。


それでも私は見たいのだ。


未知なら世界を、景色を、まだ見ぬ英雄を。


ごめんね、ライト。貴方の気持ちは知っていたよ。


貴方が私のために戦ってくれていたことも知っていた。


でも、私は自分のわがままを通させてもらう。


だって、私は、聖女ブリジット・マーベェラムは貴方の考えてる純粋無垢な少女なんかじゃないもの。


「ごめんね、ライト」


ふと口にした謝罪の言葉は、つぶやき程度でしかなく、

たぶん聞こえてないだろうなぁ…… と、思いながら、私の意識は光に消えていった。

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