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四 悪夢、再び

四 悪夢、再び


 それから数日が経過した。壮志は殺された男性の事件を気にしていたが、捜査に進展は見られないようだった。何もできない苛立ちと、また同じことが起きないかという不安が、壮志に付きまとう。この事件に自分が関わっているのかどうかがわからないことも、壮志を混乱させていた。


 あの男性には会ったことはないハズなのだが、なぜかそう言い切れない自分が、壮志の中にはいた。だから、必死になって思い出そうとするのだが、自分の記憶の中に、あの男性を見出すことができずにいた。



「また?」


 壮志は再び白黒の世界に迷い込んだ。この世界にいるということは……すぐさま壮志は、この見覚えのある森の中を走り出した。


以前、子どもの後について歩いて行った道のりを、何かに駆り立てられるように走っていた。山小屋が視界に入った瞬間、壮志のスピードはがくんと落ちた。子どもの姿を探すが、山小屋の外に人の気配は感じられない。


「この中にいる」


 壮志にはわかってた。が、入ることを躊躇した。


 何もしないままで、この夢が終わるとは思えないが、あの血の海の光景が、脳裏に浮かんでくると、足がすくんだ。静かに扉の前に立つ壮志。そっと扉を押し、外から中を見る。


 山小屋の中は、白い光の及ぶ1メートル手前ほどしか見えない。恐怖と闘いながら、山小屋の中へと足を踏み入れる。一歩。また一歩。さらに一歩進むと、勝手に扉が閉まった。


 恐怖に駆られ、扉の方に向かう。だが、すぐそこにあったはずの扉は影も形もなく、ただ暗闇があるだけだった。恐怖に身を固くしていると、自分の息遣いとともに、子どものすすり泣きが響き始めた。


 その泣き声はだんだんとはっきりしてくる。泣く声の方に、ゆっくりと顔を向ける。暗闇の中に、子どもの姿が、うっすらと見え始めた。自分の恐怖心を必死で打ち消しながら子どもへと近づき、優しく肩に触れた。子どもは壮志にしがみつくと、その胸の中で泣き続けた。


 壮志は、努めて冷静な声で問いかける。

「大丈夫だよ。どうして泣いている?」

子どもは壮志の胸に顔をうずめたまま、暗闇を指さした。指先から視線を伸ばすと、暗闇の中に何かが浮かび上がってきた。


 そこに現れたのは壮志自身だった。もう一人の自分が数メートル先にいて、背を向けてひざをついていた。背を向けているもう一人の自分が、虚ろな表情でこちらを振り返った。


 その服には真っ赤な血がつき、右手にはナイフを持っていた。抱きしめていた子どものことも忘れ、壮志はその場にしりもちをついた。


「ピチャ」


あのときと同じ、何かが手につく感触が壮志を襲った。目を向けると、辺り一面に広がっていく血が見えた。そして、仰向けで目を開けたままの男性の死体が壮志のすぐ側に転がっていた。


「うわあああ!」


 叫びながら目覚めたのは、これで二度目だった。肩は大きく上下し、服はびっしょりと濡れている。全身に疲労感が広がっていた。時計は、夜中の3時を表示していた。


 窓の外が明るくなってくるのを眺めていても、壮志の心は晴れなかった。いつも起きる時間よりも早かったが、横になっていらず、ベッドから抜け出した。


 洗面所で蛇口をひねると、流れ出た水が真っ赤に染まっている。驚き、壮志は慌てて蛇口を締めた。幻覚だとわかってはいても、壮志は動けずにいた。再び蛇口をひねると、透明な水が勢いよく流れていた。


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