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『叡智の門』

 昼過ぎに空腹を覚えて目が覚めた私は、携帯を片手に階段を降りて台所に向かった。

 普段は不携帯だけれど、新しいというだけで持ち歩く気になってしまうのだから自分も現金な女だと思う。昨日はおかしなメールに怖くなってしまって電源を切ってしまったけど、寝て起きたらそれもどうでもよくなり始めていた。とにかく、ショップに持って行けば解決する。そんな楽観的な考えが私の頭の中を占めていた。

 両親は共働きのため平日の昼ごはんは自分で作らなければならない。小さいころから鍵っ子の私はちょっとした料理はお手のもので、冷蔵庫にある冷ご飯と残り物を使ってチャーハンを作って食べた。うん、美味しい。食器の後片付けもそこそこに、携帯ショップに向かべく、シャワーを浴びて出かける準備をする。買ったばかりのシャツワンピにセーターを着て、靴はショート丈のブーティが最近のマイブームだ。

 子供っぽいけど化粧は苦手だから薄めにして、お気に入りのトートバックを持った。どうせこれから携帯ショップに向かうのだしと、携帯の電源を付ける。

 一晩寝て楽観的な考えを持った私は、携帯ショップに着く前に異常を確認しようと思ったのだ。だって、ショップに持って行って何も異常が無かったらそれはそれで恥ずかしい。店に持っていくにしても、何か異常がなくてはならないような気がしていた。

 携帯の起動画面が立ち上がってしばらくすると、そこには昨日と変わりない初期設定の水玉の壁紙が映った。メニューを開いて見ても、どこか変わった様子もなく、なんとなく拍子抜けのような感覚を覚えながらもページをめくっていると、昨日なかったはずの八芒星の中にいろいろ模様が書き込まれているアイコンが居座っていた。

 まさかと思いつつもアイコンをタップすると、昨日見た迷惑メールと同じ文面で《ようこそ、魔術の徒よ。》とカルト地味た画面に切り替わる。文面はすぐに消え、代わりにアイコンと同じような八芒星が浮かび上がって、強い光を放ったように見えた。

 携帯からそんな強い光が出るはずもないのに、私は眩しさに目を閉じ短い悲鳴を上げた。

「や、なにこれ、やっぱりウイルス!?」

 光は直ぐに収まったけれど、恐る恐る目を開いた私を待っていたのはウイルスよりもっと非常な現実だった。私はしばらくの間、自分の目の前に広がる光景が理解の範疇を超えていて呆然としてしまっていた。だって、目の前に広がるのは藍色の絵の具を塗りたくったような空とそれを支える見たこともないような巨大な木と、その木を中心にして広がる大きな街だったのだから。まさしくファンタジーといったこの風景に、夢なのかもしれないと自分の頬をつねった程だ。しかしそれも痛いような痛くないような微妙な感覚で、よく小説の主人公がするように「痛い、夢じゃないの・・・?」とか「痛くないから、夢なのかな。」といったふうにはならなかった。そもそも頬っぺたつねって痛いとか、どれほどの強さでつねればいいんだろうとかどうでもいいことまで考えてしまう。ふと携帯に視線を落とすと、相変わらず八芒星が画面に輝いている。

 

 もし、あの時私が不用意にも『叡智の門』を起動させたりしなければ。

後悔先に立たずとは言うけれど、この時は自分の浅はかな行動を本当に悔いたのだった。

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