味わい深い鰺。
開店が20:30。
閉店が03:30。
この、三十分に何の意味があるんだろ?
勤め始めた、゛本屋 深海魚゛は、深夜オープンという、珍しいスタンスをとる。
この本屋を例えるとしたらば、闇夜に浮かぶイソギンチャク?ふわふわと、柔らかなイメージ。なのに、毒も孕んでいるのだ。
僕は、今年大学三年目の幸福 強。名前のわりには、普通の容姿で、至って普通の人生を送っていた。ある日、大学の帰りに、求人募集の貼り紙をみかけ、時給の良さに惹かれてこの本屋の面接を受けた。
深海魚のオープン一年前に、ここのオーナーらしきひとに会って、僕は面接を受けた。この面接の担当者は、゛柴さん゛という名前で、オーナーは新川さんという。
面接官の柴さんと色々と話をしていたところに遅れてオーナーが部屋に入ってきた時、ほの暗い底から出てきた魚のようにみえた。色白だし、折れそうな体つき。経営者としては表立って出てこない方がいいのでは?と思えるくらい、華奢でみていてこちらがはらはらするくらいで。
僕の向かい側に、テーブルを挟んで立ち。
「オーナーになる、新川です。」と挨拶したと思った次の瞬間。
そのテーブルに、頭を思いっきりぶつけてしまったのだ。
そんな出来事もあり、何となく不安だったのだが。その後、そんな懸念を払拭するようなオーナーと柴さんの手腕っぷりに。
僕は驚くこととなるのだが、その話はまた後に振り返るとして。毎日の日課になりつつある、看板を出していたら。ふと人の視線に気がついた。
さてはて、この、目の前のお客様をどうやって捕まえよう?
とりあえず、まあ。
簡単な挨拶でもしてみるとしよう。