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深海本屋。  作者: nanchin
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鯖は傷むのがはやい、おまけにたまに虫がいる。

「あー、あ。疲れた。」


毎月、月末から10日まで縛られる仕事に。

いささか、私はうんざりしていた。


自分の仕事は、簡単に言えば。

毎月請求書を作成して、あるところにおくるという、文字にすれば簡単な事務仕事。



しかし、業務時間には接客はしなければならないし。それとは別に他の書類を作成もしないといけない。


あまつ、それが法律的にひっかかりそうな危険を孕んでいても。



その成し遂げたことに対して、感謝をされるでもなく。逆にクレームを戴くこともしばしば。



この期間は、本当に神経をすり減らして、寿命を縮めているような気がする。


理解されない、寂しさ、なんてものはとうに捨てた。



休みは、動くのもだるい。否、いまから入ると思われる風呂さえも、面倒くさい。唯一の楽しみである、読書するための本を買いにいく暇もない。


しかも、最近。


大型書店やネットに凌駕され、近場にあった本屋は。



瞬く間に潰れてしまった。



かく言う自分も、仕事のサイクル上、ネットでの購入に頼るざるを得ない状況である。



しかし、今。



目の前にある、明かりはなんであろう?



白色ではない、穏やかなオレンジの照明は。


真っ暗ななかに、ぽっかり浮かんだ空間。


先月の、この期間には、ここは空き家だった筈だ。しかも、古民家のような…


今は、咲かない桜のある住宅街の道。


両端から計って車道が15メートルあるから。


15メートル道路。


歩道に植えられた桜と山茶花が、秋には地味な色合いである。


私は、灯りに引き寄せられる、蛾のように。



その建物のある場所に佇んだ。


すると、中から若い男が立て看板のような物を持って出てきた。


「今晩和。いらっしゃいませ。」


そのことばに。


「こんばんわ。」と当たり前の挨拶をかえす。若い男の動作をみて、看板にかかれた文字に絶句する。



゛本屋 深海魚゛だと?


狐に化かされたか、と思った。悪趣味にも、ほどがあるとも。


不躾な自分の視線に気がついたのか。


「時間があったら、どうぞ?」


にこやかに、笑う若い男に。

疑心を抱きつつも。


明るい中に、身を投じてみることにした。


誰だって、裏方や暗闇を手探りで少しずつ進むなんてことを常時望んでいる筈がない。


疲れた自分に必要なものは、一筋の光だった。




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