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困惑

以降、時間切れ…です(^^;

 翌日、いつものようにヤハクの家を訪ねると、彼は熱を出して寝ているとサニエさんに申し訳無さそうに告げられた。

「まったく、一晩中遊んでた罰よ。」

 と憤るのを耳にして、一緒にいた僕はとてもいたたまれない気分になる。

「すみません、あの晩は彼にタマヒカリグサを見せてもらってたので。」

 罪悪感を払拭するために謝罪すると、彼女はひどく驚いた様子を見せた。

「あらそうなの? またホテルに忍び込んで、いたずらでもしてたんだと思ってたんだけど……そう、ならいいわ。」

 ヤハクは何を疑われてたんだ? 以前何をやったんだ? 気にはなるが、たぶん気にしてはいけないのだろう。

「……あの、元気になったらメールででも知らせて下さい。」



 お大事にと残して、そそくさと彼の家から離れた……のだが、後ろから自分のものではない、もう一つの足音が聞こえてくる。

 別に何を喋りかけられる訳でもなく、引き止めるでもなく、ただ気配だけが付いてくる。

「ねぇ、何か用でもあるのかい?」

 さすがに気になって立ち止まり、諦めて振り向くと、シャファンも当然のように足を止めた。

「別に……用ってほどの用じゃないけど、弟があれだから……今日は私が案内してあげようかなって。」

 いや、僕の後を付いてくるのは、案内とは言わない。しかし一体、これはどういう風の吹き回しなのだろう?

 この子の逆鱗はどこにあるのか判らない。何がどうなってその怒りに触れるのか、僕にはさっぱり見当がつかない。だからまた、下手な事を言って引っ叩かれたくはない。

いや、今までは言う前に引っ叩かれたのか。

 とりあえず僕は、断る方法について必死に頭を巡らせた。

「いやいいよ。今日は昨日見せてもらったタマヒカリグサについて調べてみるつもりだから。ほら、どういう仕組みで光るのか知りたいし、成長の過程も気になるからね。帰ったらすぐ、誰かレポートにでも纏めてないか探してみる気なんだ。」

「ふーん、そう。あなた研究熱心なのね。」

 彼女は見事それで納得し、案内をする事は諦めてくれた。

 僕は別に、彼女に嘘をついたつもりはない。帰ったら本当にネットワーク上のレポートを探してみるつもりでいるのは事実だ。


 ……しかし。

 端末でタマヒカリグサのレポートを広げた僕の後方には、シャファンがカウチで暇そうに寝そべっている。

 ……一体何故だ?

 どうにか断ろうと、色々言ってみたのだが……それ以前に、植物のレポートを漁るという時点で、女の子の興味からは完全に外れるはずだと思ったのだが、どういう訳か彼女には効かなかった。

「じゃあ、私はあなたの部屋で涼ませてもらうわ。」

 そう彼女は固持し、本当に付いて来た。しかも何をするでもなく、ただカウチに転がっている。

 ……まったく意味が解らない。彼女の目的は何なのだろう?

 それがやたらと気になって、せっかく見つけて開いたレポートに何度目を通しても、さっぱり頭に入ってこない。

「ねぇ、そんなに植物調べて楽しい?」

 不意に彼女が声をかけてきて、僕は必要以上に驚いた。

「はっ!? しょ、植物?……あぁ、うん。楽しいよ? そもそも僕は、知らない事を知るのが楽しいんだけど。それがどうかしたのかい?」

 カウチに転がる彼女は一度目を伏せて、「知らない事」と、呟いたような気がした。

「ねぇ、私はこの星しか知らないの。あなたが住んでいるのはどんな所?」

 それを知って一体どうする気なんだ? ……と、正直そう思わないでもなかったが、しかし、振り返った彼女は予想以上に真剣な顔をしており、誤魔化す気は失せてしまった。

 僕はぐるりとイスを回して、きちんと座り直した。

「僕が暮らしてるのはBT-0005。スコラティクス・プラネタって呼ばれてる。元々学者が多く入植した研究施設の多い場所なんだ。」

 彼女はまっすぐ僕を見ていた。

「でもそんなに面白い所じゃないよ。ここと違ってビルばっかりだし、小さい頃から勉強にはうるさくて。住んでる人は、まぁ根は真面目だと思うけど、自分の好きな研究に忠実で、その分あまり人に関心の無い人間が多いんだ。」

 この惑星の、ややお節介ながらも賑やかな人たちに触れて、驚く事がたくさんあった。いや、今も彼女に驚かされている最中なのだが。

「ねぇ、みんなあなたみたいにズレてるの?」

 ……いや、本当に驚かされる。

 目を(しばた)く彼女に、僕は何と返せば良いのだろう?

「……僕、そんなにズレてる?」

「自覚無いの? ……そうね、でも、だからズレてるのよね。」

 一人で納得している彼女に、もう黙り込むしかない。何かを言えば、更に傷を広げられそうだ。

「ねぇ、薬作ってるって弟から聞いたんだけど、どんなの作ってるの?」

 だが、黙っていても彼女には傷を(えぐ)られるらしい。訊いて欲しく無い事を見事に訊いてくれる。その薬が出来なくて、いまここに居るというのに。

 けれど僕がそう感じているだけで、それを知らない彼女の責任ではない。

 僕は、一度目を閉じてそう必死に思い込む事にする。

「うん、僕はウイルス性の発熱症の特効薬を開発しなきゃいけないんだ。……けど、さっぱりでね。もうどうしたらいいか分からなくなってたんだ。だから、気分転換と仕事半分のつもりでここに来たんだけど、良い所だよねここは。ここの人々は開放的で、陽気で明るくて、世界は自然で溢れてるし。多少暑いけど、もう慣れたから何て事無いし。息の詰まりそうなあの街に比べたら、ここは天国みたいな所だね。」

「良くなんか無いわ!」

 しかし彼女は、力いっぱいに否定した。

「……ここは客がいないと成り立たないの。だからみんな卑屈で、媚を売って、私はそういうのが嫌なの!!」

 そう叫んだ彼女は僕を睨み、乱暴にカウチから下りた。そして、

「私はここが嫌いなの!!」

 そう叫んで、勢い良く出て行ってしまった。


 後に残された僕は、ただ困るしかない。

 多少苛ついていたせいか、どこか自虐的になっていた自覚はある。だから、ここへの憧れがそのまま口をついて出た。しかし、僕が自分の場所に不満を抱いているように、彼女もまた不満を抱いていた……という所か。僕の「羨ましい」という思いが、彼女にとっては納得出来なかった、と。

 でも僕は、それが無い物ねだりであると分かっているつもりだ。きっとどこに住んでも、多少の不満は出る。それに僕は今の場所から逃げ出す気は無い。たとえ敷かれたレールでも、そこを進む事を選んだのは僕自身だ。だから、一方的に感情をぶつけられるというのは、何となく理不尽な気がする。


 やっぱり彼女に関わると碌な事がない。僕は自分の中でそう締め括り、ホログラフのモニタに広げたレポートに、今度こそ真剣に目を通した。

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