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鬼畜外道より愛をこめて  作者: キノコ飼育委員
準備中!☆下拵え中!☆種蒔き中!
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アプローチに愛をこめて

このキノコ飼育委員 こと小説の更新に限り虚偽は一切言わぬ 1月……!1月に更新するが……今回 まだその『1月』という時間の指定しかしていない そのことをどうかあなたたちも思い出していただきたい つまり……私がその気になれば小説の更新は10年20年後の一月ということも可能だろう……ということ…!(作者はカイジを読んだことがない)


新年、明けましておめでとうございます!!

今年度もよろしくお願いします!


 冒険者向けの食堂と言ったら、『安くて早くて味は濃い』といったまるで学食のような代物を指す。


 この食堂も例に漏れずそういったタイプで、カウンター席と丸い机にイスといったテーブル席、さらに少し奥まったところにはボックス席もあるといった感じだ。


 ちなみにここは夜限定で酒が出る。

 昼にも出すと飲んだくれが入り浸るので、ギルドのイメージダウンを避けるため制限をかけているのだ。


 さて、席取りを任されたコールことフロストは、適当にテーブルでいいかと空いてるところに座った。

 背中のバトルハンマーを外し、寄ってきたウェイトレスに料理の説明を聞き、飲み物だけを頼む。


 そうして注文したものを待っていると、隣のテーブルに座っていた男が話しかけてきた。


「あの、もしかしてプレイヤーの方ですか?」


 見れば、なんというかいかにも魔術師といった格好の……




 エルフ




「ッグ!!」


 すんでの所でフロストは右手を左手で引っ掴むことに成功した。

 漏れかけた激怒もコンマにも満たない早さで鎮める。


(危なかった……エルフかと思ったじゃないか)


 メキメキとガントレットを軋ませながら、フロストは心中冷や汗をぬぐった。

 そう、目の前の男は、エルフに見えるが『そうではない』。

 エルフでないのにエルフの姿をしているなら、変装しているかもしくは―――――


「……そう言うあなたハ? いヤ、確か『ホワイトナイツ』のミドルさんでしたカ?」


 プレイヤーだ。

 というか直前に“プレイヤーですか”と聞かれたのをフロストは思い出した。


(長耳見た瞬間に頭から消し飛んだのだが……しかし、耳だけ切り取ってもらえんだろうか。イラつくんだが)


 フルフェイスの冑越しに睨み付けるが、ミドルは気づいた様子もなく、にこにこと話しかけてくる。

 ちなみに、ミドルは正体を偽装する腕輪を着けており、そうすることで人間の顔になって目立つことを避けている。

 が、フロストは一定ランク以下の幻覚を看破する種族スキル〈神の目〉を所持しており、ミドルの種族であるエルフの顔が見えているのだ。


「あ、ご存知でしたか。そうですそのミドルです。知っているということはやはり…?」


「はイ、私はコールという名前の者でス」


「コールさんですか、おひとりですか? もし行くあてがないのでしたら我々の拠点にいらっしゃいませんか?」


「いエ、連れがいますシ、仲間は冒険に繰り出したくて仕方ないようデ……」


「……そう、ですか。あの、失礼ですが、レベルの方は…」


「ご心配なク。全員800以上でス。装備は目立つのを防ぐためにかなり落としていますがネ」


「あぁ、なら安心ですね」


「エェ、こう言うのはゲームのようで気に入りませんガ、ここらは0〜100レベル帯、ダンジョンでも200以下といった様子。死ぬ要素がありませン」


「死……っ! そうだ、このことだけは絶対に覚えていてください…!」


 ミドルは何かを思い出したのか、急に真剣な顔つきになったかと思うと、身を乗り出して声を潜めた。


「この世界には我々のような一般プレイヤーだけがトリップしたのではありません。あの悪質なPKの集まりである『自由同盟』もこちらに来ているようです。しかも、ネット小説で見る『俺ツエー』を目指すような悪辣な性質のまま!彼らはこの世界もゲームの延長と捉えたままです」


「……まさカ、そんな恐ろしい考えを持った奴らガ…!?」


「ええ、気をつけてくださいね。もしそういったプレイヤーを見かけたら連絡をください。すぐに助けに向かいます。これ、私のプレイヤーIDです」


「これはご丁寧にどうモ……こんなウィンドウが出たりするからそんな勘違いを起こす輩が出るんでしょうネ」


「ええ、嘆かわしいことです。かと言ってアイテムを取り出せなくなるのは―――ん?」


 その時だ、食堂の外がにわかに騒がしくなった。

 具体的には誰かが暴れるような。


 それを察知したミドルは、急に据わった目になると、


「……ええと、すみませんがここで失礼します。困ったことがありましたら気軽に〈メッセージ〉をください。『ホワイトナイツ』の名にかけて助けに向かいますよ。それでは!」


 そう早口に言い残し、食堂の外へと駆けて行った。


 そんなミドルが去った後、フロストは誰にも聞こえぬよう小さく吐き捨てた。


「フン、俺にすらわかるゾ……いったいどちらがこの世界をゲームと捉えているのかハ…」



 それからしばらくすると、フロストの脳内に『メッセージ』の受信音が。

 開いてみれば相手は黒蟻。


「黒蟻からカ。テストの続キ?やれやレ、これなら下で待ってても同じだったナ。あぁウエイトレスさン。すまないが先程の注文をキャンセルしたイ。何?ホットコーヒーは淹れてしまっタ?ならその料金は置いておク。コーヒーは君に奢ろウ。では失礼すル」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 それは、フロストがミドルと出会ったころまで時間を巻き戻す。



「あ、タケチ様!」


 トイレから戻った黒蟻、それを受付嬢は手をあげて呼び止めた。


「ん?何や受付さん、俺のこと呼んだ?」


「はい、えー、試験の用意が整ったので、早急に戻ってほしいとの連絡が来ました」


「え?えらい早ない?」


「はい、予定よりかなり早く用意できたそうです。何でしたら後にするようこちらから連絡を回しますが……」


「いや、今からでいけると思うで。たぶんまだ何も注文しとらんやろうし。ほな呼んでくるわ」


 そう言うと黒蟻は、振り返って食堂に向かおうとした、その時。


「うぉ!」


 黒蟻の後ろにいた大男にぶつかった。

 大男、猪の毛皮を羽織り、手斧を腰に下げたそいつは、大袈裟に後ろに倒れると、


「足が折れちまった〜!」


 とのたまった。


「……」


 この熊みたいなオッサンは何を言うてんねやろ?的な白い目でそれを眺める黒蟻。


 と、周囲をちらと確認すればこちらをニヤニヤと観察してくる視線を感じる。

 

(あぁ、“可愛がり”ってやつやな。めんどいなぁ……)


 恐らく“金持ちの道楽で来た小僧どもをからかってやろう”ぐらいの気持ちでいるのだろうとあたりをつける。


 受付嬢が止めようとするそぶりを見せているが、まぁ無理だろう。

 見たところ気弱そうであるし、体も鍛えていないいたって普通のねーちゃんで、相手は蛮族のイメージそのままの大男。


(どー考えても相手させたらねーちゃん可哀想や。となると自分で何とかせなあかんわけやけど……めんどいなぁ)


 未だ何事かを喚くオッサン(内容は一文字も頭に入れてない)を見上げる。


(……おいオッサン、足折れたんちゃうんかい)


 普通に立ってドヤ顔で何か言ってるオッサン(やはり内容は聞いてない)にツッこむ気力すら削がれていく黒蟻。


 もうゼニでも投げて退散しよかと思いつつ、こんな時他のメンツならどないしたやろと考えてみる。


 ラヴなら大喜びしただろう。表へ引きずり出し、裏路地に引きずり込み、しばらくして出てくるのはラヴひとりだけといったところか。

 ルリならぶつかられた時点でこの大男に全治2年の怪我と一生モノのトラウマを刻んでる。

 フロストなら、言われたこと全てに整然と反論した挙げ句殴られ……そうになって殴り殺すか、ヒートアップした末に唐突にキレてこの町が焼け落ちる。


(……ビックリするくらいどれも参考にならへん。どいつもこいつも穏便に済ますって発想がない。俺みたいなまともな思考ができん連中を参考にしようとしたんがそもそも間違いやったか……あぁもう、めんどいなぁホンマ)


 じっと大男の目を見てふいに思う。


 ―――これもう(バラ)してええかな?


「っ!?」


 突如、大男はその場から後ろに飛びずさった。

 しかも己の武器である手斧に指をかけてだ。


 その時だ、彼は恐れからか、後ろにいた黒塗りのグローブをつけた少女に気づかずぶつかってしまう。


 しかし大男はそうとは思わず、柱か何かに当たったと感じた。

 何故なら、自分の巨体が人にぶつかってピタリと止まるなど考えられなかったからだ。


 当然ぶつかられた少女、というか実はぶつかりに来ていたサチはヤクザのような怒声を上げた。


「オイゴルァ!こっち見ろ、冒険者免許持ってンのか!?」


「は!?アァ?!うるせえ!今はテメエみてえな貧相なチビに関わってる場合じゃ……」


 しかし大男はサチをチラッと見ただけで黒蟻に向き直る。

 大男は見たのだ。

 彼自身”何を”と言われれば言葉に詰まるだろうが、得体の知れないナニカを見たのだ。


 ゆえに彼は黒蟻の方に全力で集中しようとして、


「おい」


 だがしかし、わざわざ回り込んできたサチに、まずは『危ないからどけ』と怒鳴りつけようとした。


「邪魔だど―――」


 ……惜しむらくは、目の前にいたのが話を聞かないサチだったことだろう。

 いや、第三者から見れば、大男が若い娘にいちゃもんをつけたかと思えば、いきなり武器に手をかけるという戦闘態勢で睨みつけたという状況なのだ。

 

 それゆえ、これは不幸な事故とも言えた。

 ついでにサチのコンプレックスを刺激したことや、サチが冒険者稼業でちょっと思考が野蛮な方へ傾いていたこともあるだろう。


 まあ要するに、大男はボッコボコにされるということだ。


「おにゃのこに手出してンジャボディ!!」


 サチの拳によって大男の巨体がくの字の状態で浮き上がり、


「そもそも誰かをいびろうとする性根がレバー!!」


 すぐさま踏み込んで肝臓に追撃。


「あとお前から見りゃ大抵チビ踵落とし!!」


 浮かんだままの大男の上を、まるで瞬間移動でもしたかのような速度でサチが取り、地面に叩きつける。


 最後にスッと取り出したボトルを―――


「反省しろポーション!!」


 ドタマ目がけてガシャアンと叩き込んだ。


「……ご、ふぅ…」


 大男はすこしだけ呻くと、ピクリとも動かなくなった。


「ふっ、安心しなさい。みねうちですアイタタタタタ!!!!」


「委員長~?もう少し目立たない方法をとっていただけませんかねぇ?」


 ふんぞり返ったサチ、その後頭部をガッシとミドルが掴んだ。


「大丈夫殺してませんよ!最後にポーションで殴ったので回復もしましたし」


「そういう問題じゃないんです!!」


 苦言を呈するミドル、それを無視しサチは(頭を掴まれたまま)黒蟻へと笑いかける。


「大丈夫ですかお嬢さん、怖かったでしょう。ですがもう安心してくださいこの私が……って、あれ?」


 しかしお嬢さんこと黒蟻はこれをスルーし、倒れた大男の方へ向かう。

 大男の傍らには、彼の仲間と思しき男が居り、しきりに声をかけていた。


「ホーエン!おいしっかりしろ!生きてるかホーエン!」


「あー、ちょっとええか?」


「なんだ!?あぁアンタか、さっきは悪かったな。だがすまんが構ってる余裕がない」


「そのことやけど、そのオッサン診たろか?こんな格好やけどこれでも医者や。ああもうどけどけ、揺さぶんなド素人」


 そう言って黒蟻は男を押し退け、テキパキと脈拍と呼吸を確かめ、瞳孔をチェックし、サササッと触診で骨折の有無まで調べると一言。


「うん、健康やね」


「ほ、ホントかよ。すげえ音してたぜ?オーガにラッシュ喰らったみたいな光景だったんだぜ?」


 心配そうにしている男に、黒蟻は呆れたように返す。


「脳震盪起こして寝とるだけで骨折もしとらん。目ぇ覚ましたら猪みたいに元気に走り出すやろ。ホンマ頑丈な男や」


 と、ここで黒蟻はニヤッと笑い、


「足が折れた次の瞬間に立ち上がっとっただけあるわ」


 そう男に笑いかけた。


「たはは……人ってのは見かけに寄らねえな。反省するよ。俺はネリン、アンタは?」


「タケチや。よろしくな」


「ああ」


 そう言って二人は握手を交わした。


「あ、あのー……」


 置いてけぼりにされたサチは、どことなく気まずそうに黒蟻たちに声をかけ……


「うん、で、君や問題は」


 振り向いた黒蟻、その射すくめるような目に晒された。


「ぅえ?!」


あんな(あのな)、何でもかんでも暴力で解決したらあかんで。助けてくれたんは嬉しいよ?せやけどあんなん冗談みたいなもんや、おふざけや」


「で、でも……」


「いや気持ちはわかるよ?助けを呼べない、怯えきった子も世の中にはおるやろ。せやったら何で最初に暴力を選択したん?話して止めれば良かったやん」


「そ、それは……」


「ん?」


「その……」


「ん?」


「……ご、ごめんなさい」


 消え入るような声でサチは謝った。


「俺にちゃうやろ」


「は、はい……ごめんなさい」


「い、いやいいよ!こいつも気にしないだろうし元はと言えば俺たちが悪いんだから!!」


 いつもの様子を知るネリンからすれば恐怖すら感じるほど、サチはしゅんとして反省していた。

 

「ん、オッケオッケ、次ちゃんとやれたらええねん。お前サチやろ?でそっちがミドル」


 黒蟻はニッと快活に笑い、サチの肩を気安げにポンポンと叩く。


「アッハイ、それです本人です…」


「すごい……委員長をここまで…あ!もしや食堂のコールさんは…」


 未だにしゅんとしているサチと、感心しているミドル。


「おぅそうそう、そのコールの仲間や。まぁとにかくや、まずは一回話してみよ?殴んのはそれからでも遅ないやろ」


「はいぃ……」


「あー、ゴメンな!説教臭くなってもうて。俺、家業が医者やからつい、な。暴力は嫌いやねん。ほなそろそろ俺行くわ!」


 そう早口に言い切ると、黒蟻はササッと試験場の方へ歩き去った。


 その場に残されたサチ、ミドル、ネリンと気絶中のホーエン。あとその他の冒険者たち。

 と、サチがプルプルと震えだしたかと思うと、一拍後。


「……調子こいててすいませんでしたアアアァア!!うわぁあああ俺ツエ―勘違い野郎になってたぁあああ!!」


 顔を覆ってその場に崩れ落ちた。

 自分の所業を振り返り、耳まで真っ赤になったサチ。


 そのまま石のように丸くなった彼女を慰めるのに、ミドルやネリンがかなりの時間を要することになるのは、完全な余談である。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




(まさかこんな展開になるなんてなぁ……)


 足早に立ち去る黒蟻は、心中でそう呟いた。


(日頃の行いがええからこういう時うまい具合にことが運ぶんやろな。まぁこれで顔は覚えてもろたやろ。出来ればもう2、3回会って印象を深めたいけど難しいやろな……名前は微妙やろうけど顔だけで充分や)


 『ラヴァーズ』全員に試験再開の<メッセージ>を飛ばしながら、黒蟻はそっと口元を手で隠す。


(これで必殺分(はなしあい)の隙は手に入ったな。いつその時が来るやろか……)


 試験場へ向かう階段を下りる途中、隠した口がニタァと弧を描く。


「楽しみやなぁ……」


次の更新は……2月だ!

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