クリスマスに愛をこめて
あ、あの……メリークリスマス!
サンタキノコから良い子な鬼畜のみんなに番外編をプレゼント!
12月24日。
聖人がこの世に生れた日。
大切な人と過ごす、一年で最も聖なる日。
でも、どうか忘れないでください。
あなたが大切な人と過ごしているとき、それを支えるために頑張っている人がいることを。
あなたが誰かの温もりを感じているとき、それ以上の孤独と寒さに耐えている人がいることを。
キラキラしいイルミネーションが目に刺さり、赤い悪魔には返り討ちにされ、チキン喰って布団に逃げ込むしかできない人々を。
その人達が心の底にたぎらせている、熱く、どす黒い、嫉妬の炎を―――。
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じんぐるべーるじんぐるべーる鈴がーなるー
こ・と・しーもサ・ン・ターがやーってくるー
ヘーイ!
しんぐるへーるしんぐるへーる煤けーてるー
こ・と・しーもあ・な・たーはひとりきりー
ヘール!!
「滅入り苦しめアベックどもおおおお!!!」
「「「「レッツ!ハルマゲドォーン!!!」」」」
そこら中で高性能爆薬弾頭RPGが発射され、クリスマスを焔に包む。
戦車にアパッチ、果てはスーパーロボット(ガチムチパンツマスクを模したカラーリング肌色のスーパー型)まで暴れ出す。
「ひゃははは!!死ねえ!死ねクソガキども!ゲームん中までイチャコラしやがって!」
「世間じゃ失踪した俺達だがな!それでも戦いは止めねえぞ!!」
狂った哄笑とともに暴れまわるパン1筋肉ども。
ここは『WoR』の公式が運営している街で、一際豪華なクリスマスイルミネーションで飾られている。
現実世界では見ることができないその光景はプレイヤーの心を捉え、それゆえクリスマス会はお金もかからず(ゲーム内通貨は別)豪華に楽しめる『WoR』でやるというギルドも少なくない。
モチのロン、カップルもな!
そして憎きアベックどもがキャッキャウフフすると聞けば黙っていないのが『嫉妬団』であり、かくして街は戦場となった。
ちなみに何故街で暴れ、PKが可能かと言えば、今日のような『恋人イベント』がある日はそのシステムが全面的に解除されるからだ。運営マジ狂ってる。けど神対応。
だがもちろん、それを許さない者達もいる。
突如『嫉妬団』所属の戦車やSRが数十本の光線に貫かれ爆発した。
「何ごとだ!!敵か!『ホワイトナイツ』か!?」
「いえ総統! 船です! 戦艦です!!」
「ッ! まさか!!」
主力を潰され慌てふためく『嫉妬団』の姿を、空からのサーチライトが曝しだす。
光を手で遮り見上げてみれば、宙に浮く戦艦。
船体には『愛しい人の頭を丸かじりにするハート』。
それを見て『嫉妬マスク』は怒りの絶叫を上げた。
「『ラヴァアアアーズ』!」
と、空中戦艦から声が落ちてくる。
『悲しいなぁ……』
『とても、とても、僕は哀しいよ……嫉妬団さん』
『今日は聖夜なんだよ?一年で一番いい夜なんだよ?サンタさんがよい子にプレゼントをくれて、コウノトリが飛び回る夜なんだよ?』
『それを邪魔するなら……』
同時、空に大量の天使……を模った人形が放たれる。
空を埋め尽くす天使の、神々しい光と血涙の雨。
『僕が、僕ら『ラヴァーズ』が相手だ』
たらりと嫌な汗をかきながら、(内心で撤退の算段を立てながら)戦艦を指差し空に唾吐くように『嫉妬マスク』は叫ぶ。
「ふ、ふははは!!! 悲しい奴なのは貴様も同じよ『ラヴァーズ』!! 性なる夜にゲームとは! 恋人はどうした? フラれでもしたかヒィッ?!」
『嫉妬マスク』の頬を弾丸が掠めた。
『一緒に来てんだよボケ』
『あ、ごめん。僕は11時にはログアウトしなきゃだから、君と話してる暇は無いんだ。そこから六時間ほど忙しくなるから手早く済ませたいんだよ。明日は僕の誕生日だしね』
(注・6時間の意味がわからない清いキミ! そのままのキミでいてくれ!)
『嫉妬団』に致命的ダメージ!鼻血・吐血・血涙の状態異常!
「クリスマスを汚し淫蕩に耽るアベックどもの手先め……!今こそ、アベックともども我らの裁きを受けるがいい」
そう言って『嫉妬マスク』は攻撃を指示しようとし――――――はたと気づいた。
自分達が、大量のプレイヤーたちに取り囲まれていることに。
先程まで逃げ惑っていたアベックどもが、不気味な仮面を着けていることに。
「こ、これは……!?」
空から、楽しげな声が落ちてくる。
『実はここ、PKしかいないんです☆』
「なっ?!」
『正確には、ここにいた一般の方々は一時避難してもらいました!』
『テメエラの出現予測ポイントは五つ。そのすべてにPKのカップルを配置、テメエラの出現と同時に待機組も集結して一般人の蘇生と避難誘導。指揮はもちろんこの俺だ』
確かに襲撃予定地は5つ、ここが終わったら順番に落とすつもりだった。
ちらと見れば先ほど撃たれて倒れていた死体が無くなっている。
『全部終わったらみんなでゆっくりパーティを楽しむ! これが今回の計画です! ではみなさんお待たせしました!! メリークリスマス!』
『『『『メリークビキリシマス!!』』』』
「クソォ! 殺られてたまるか『ラヴァーズ』めえええ!!」
『あ、安心してくださいね、殺しませんから』
「な、なに……?」
『あなた方には僕からのプレゼント、「ソドムの穴」に入って貰いますから……イイ声、聴かせてくださいね?』
その時『嫉妬マスク』は、『このままでは死ぬよりおぞましい目に遭う』と直感した。
「ぜ、全員ここは戦略的撤退をゲァ!?」
逃げようとした矢先、『嫉妬マスク』は蛙のような悲鳴をあげて足蹴にされた。
戦艦から飛び降りてきたルリによって。
「逃げんなよボケ……」
ルリは全身から凄まじい怒気を立ち昇らせながら、ショッキングピンクのガトリングガンを構える。
「あのな? ホントだったら9時にはもう二人っきりだったハズなんだ。なのにテメエラみたいな負け犬のカスどものせいで」
(注・何故9時なのか、わからないキミ! お家の人に聞いちゃダメだぞ!)
「な、ならそう言えば「あ゛ぁ?!」ヒイッ!」
仮面越しでもわかる激しい憎悪の眼光に竦み上がる『嫉妬マスク』。
そんな彼の眼前でガトリングガンの銃身が回転していき――――
「ワガママな女だって思われたらどうすんだよこのカスがぁああああ!!!」
ショッキングピンクの光弾を発射した。
「ぎィゃアアアアアア!!」
光弾は『嫉妬マスク』の頭を、胴を撃ち抜いていく。
頭の中を光弾が抜けていく瞬間、彼は『死んだ』と思った。『即死』したと。
だがその考えに反し、全身は蜂の巣にされていく激痛を訴え続ける。
そこで彼はようやく自分が死んでいないことに気づいた。
「ぐあああ!なぜ?!なぜ死ねんんンンン!?」
蜂の巣にされ続けるという、『死に続ける』に等しい痛みの中で絶叫する『嫉妬マスク』に、ルリは嘲りとともに答えを教えてやった。
「コイツは『レジェンドアイテム』の『夢痛ガン』つってなァ!?コイツで撃たれても『身体には』一切のダメージはねぇんだよ!代わりに、激痛だけがテメエを襲う!」
「ヒィイ!!」
「さぁ、メリー苦しみやがれ!!」
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戦闘とも言えない蹂躙劇が終わり、『嫉妬団』は一ヶ所にお縄になった状態で纏められていた。
彼らは皆一様に青ざめいる。その原因は目の前のクマ仮面をつけた少年にあった。
『異常識人』ラヴ゛の拷問好きは広く知れ渡っており、生かしたまま捕まえたというのはどう考えても『拷問』が目的としか思えなかったのだ。
まぁ、実際そうなのだが。
さて、ラヴは拘束された『嫉妬団』の前に立ち、爽やかな雰囲気で言う。
「『嫉妬マスク』さんに『嫉妬団』のみなさん、問題です!プレイヤー間の同意のない猥褻行為を防ぐシステム『セクハラコード』ですが、これはどういった基準で発動すると思いますか?」
「き、基準だと?」
「答えは『判定その1:プレイヤーか?』『判定その2:された側に嫌悪感があり悪意が無いか』『判定その3:した側に悪意があるか?』です。これらを上から順に判定し、全て『yes』の場合にのみ発動します。これはわざと痴漢させるような行為を防ぐ意味もあるわけですね」
「何故そんなことを……しらべた……?」
白黒のクマの仮面、その裏から邪悪な悪意が立ち上る。
「逆に言えば、ひとつでもnoなら発動しないんですよ……で、創った人形がコレなんです」
そう言ってラヴは、ぱっちんと、指を鳴らした。
瞬間、『嫉妬マスク』は背筋に氷柱を突き刺されたかのような戦慄を感じた。
後ろからナニカ近づいてくる足音が聞こえる。
死神の足音が、近づいてくる!
振り向いてはいけない、目を合わせてはいけない、そもそも動けない。
そして己の真後ろにまで近づいた死神は、ガシッと『嫉妬マスク』の肩を掴んだ。
振り向きたくない、見たくもない、しかし今ここに至っては視認しなくてはならない。
錆びた機械のようにぎこちなく、ナニカを振り向く。
そこには――――――!
『ふっ。可愛い顔してるじゃないか、ヤらないか』
「おぎゃああああああああああああああ!!」
「『アベクマー』ってモンスター、知ってますか? ノンケだってほいほい釣って喰っちまうモンスターなんですけど」
「よ、よせ! やめろ!? 近づくんじゃない!!」
『お前、俺のケツの中でションベンしろよ』
「うわああああああああ!!」
アベクマー人形を振り払い、『嫉妬団』一同は逃げ出した!
「おっと! 逃がしませんよぉ!」
再びラヴが指をならせば、『嫉妬団』達の立っていた地面が消え、奈落への穴が彼らを飲み込んだ。
「「「「「うわああああああああああああ!!!!」」」」
ぼっかりと空いた穴、その底にはアベクマー人形、さらにアベクマーそのままがひしめき合い、蠢くレスリング場が。
「ヤらないか」「ヤらないか」「ヤらないか」「ヤらないか」「ヤらないか」「ヤらないか」「ヤらないか」「ヤらないか」「見てくれ、コイツをどう思う?」「ヤらないか」「あぁん?だらしねぇな」「ヤらないか」「ヤらないか」
「「「「「アッ――――!!!!」」」」」
「キャハハハハ!! 酷い! これは酷いですね! キャハハハハ!!」
穴底のサバトを指差して笑うラヴ。
周りのPKたちも爆笑しながらスナップ写真を撮っている。
「さて……ん?」
「ぬっ……ぐぉぉ……!」
どこか近くから暑苦しいうめき声が。
見れば穴の縁に指先だけ引っ掻け、足を二匹のアベクマーに掴まれた『嫉妬マスク』が。
蹴り落とそうとしたPKを制して、ラヴはそこに近寄る。
「あぁ〈縄脱け〉出来たんですね『嫉妬マスク』さん。キャハハ! 頑張りますねー!ほらもう少しですよ!もっと力を込めて!キャハハハハ!!」
「ぐぅう……ラヴ! 貴様いったい何の恨みがあって我らの崇高な使命の邪魔を……!」
「崇高なって……まあいいです。でも恨みですか……」
左手を顎に当て、右手で『嫉妬マスク』の小指をちょん、ちょん、とつつきながら思案するラヴ。
「例えば、友人が苦労して創った遊園地ステージを、あなたたちが『アベックの溜まり場』とか言って吹き飛ばしたこと?」
その小指の爪をベリィッ!!と剥がす。
「ッガアッ!!?」
「それとも、ようやくカップル成立したPKの友人たちをお前らがkillしたこと?」
薬指と中指も剥がす。
「ッッ!!」
「いやいや、『恋人達』らしいことをするため?」
べりべりべりべりと剥がしていく。
「ッグゥウッッ!! 止めろ! この悪魔が!」
「……あぁ。わかった。今日ホントだったら9時にはルリと二人っきりだったのに、みんなが僕に助けを求めたからだ。そのせいで恋人イベント外すはルリは不機嫌だはさんざんだよ。お前らさえいなければって、恨むのも当然だ」
「な、ならそう言えば「はぁ?」ヒッ?!」
いつの間にか、白黒のクマ、その目に黒々とした穴が開き、『嫉妬マスク』を睨み付けていた。
「頼りない男だって思われたらどうしてくれるの?」
「アばばば……」
恐怖のあまり泡を吹き出す『嫉妬マスク』。
「それじゃ、『嫉妬マスク』さん」
ラヴの両手が空間の中に沈み、大砲のような二挺の拳銃を抜き出す。
その銃口がゆっくりと『嫉妬マスク』の両肩に向けられ――――――
「さようなら」
―――引き金が引かれた。
「ウアアアアアアアアアアアアアアァァァァ!!」
『嫉妬マスク』は、暗いソドムへと堕ちていった。
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「さて、ソドムは硫黄の雨で浄化されるわけだから……ん?」
溶岩でも流し込もうかと考えていたラヴだったが、ぐいと、ルリに手を引かれた。
「どうかした?」
「……」
手を握ったまま無言のルリ。
「……うん。予定より早いけど、ログアウトしよっか」
「……うん」
「じゃあみんな! 悪いんだけどあと適当に殺っといてくれますか?」
「わっかりましたー!」「任せてくださいよラヴさま!」
「こんやは おたのしみですね!!」
「お疲れさまでーす!」
みんなに見送られ、二人はログアウト。
こうして、聖夜の平和は守られたのだった
らよかったのだが。
「女の嫉妬は、鬼より怖いんですよぉオオオオ!!」
突如としてパピヨンマスクの少女が突撃してきた。
少女の目はドス黒い炎を宿しており、何か血走っててヤマンバめいている。
「憎い!キラキラのイルミネーションも幸せそうなカップルも『サンタさーん、ケーキくださーい。あでもぉ、こっちのがおいしいかなぁ?ゆうくんどう思うー?』『俺はー、みゆのほうが食べたいかなー』なんてクソ会話して買わずに帰るクソアベックも憎い!何もかもが憎いぃい!」
「待ってください委員長!落ち着いてくだs」
「うるせぇー!!」
止めようとしたミドルを殴り倒し、パピヨンマスクは暴れる。
「今の私は『嫉妬レディ』だー!」
そう叫んで謎のバカは暴れまわり、『リア充どもによる仮面パーティ』と認識された彼らにも襲いかかった。
そしてとうとう、その破壊の余波で『嫉妬団』は全員脱出してしまいましたとさ。
一月は絶対更新しますから!
確約しますから!