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鬼畜外道より愛をこめて  作者: キノコ飼育委員
準備中!☆下拵え中!☆種蒔き中!
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新人冒険者より愛をこめて

ちょっと短め。

事情の説明は二話後くらいに。

ここは人間界の辺境。


かなり田舎に存在する国の、そこそこ大きな街。


だが、どこだろうと冒険者ギルドの朝は早い。


日の出より早く従業員は出勤し、掃除や用紙補充、書類整理などの細々とした開店準備を行う。


さらに依頼板に新しい依頼を張り出し。


低いランクの依頼は下に、高いランクの依頼は上に。


期限の切れた依頼は回収する。


それを『採集』『雑務』『討伐』『人狩り』それぞれの依頼板で行う。


窓を開け、併設された酒場の臭いを追い出し、朝の空気を迎え入れる。


そうこうしていると、朝早くから冒険者の第一陣がやって来る。


この時間帯は夜に向いた狩りや城壁警護の応援などの雑務に出向いた冒険者が帰ってくる時間帯だ。


もちろんそういったことをする冒険者は少ないので、仕事量もあまり増えない。


そこから昼にかけて第二陣、昼食をはさんで第三陣、夕刻から夜に第四陣が来るのだ。

依頼者も同じくだいたいその辺りで来る。


だが時間を問わずどれかにやって来るのが――――


「ギルドに登録したいんですが、どうすればいいですか?」


―――新しく冒険者となる雛鳥だ。


受付嬢はにっこりとスマイルを浮かべて、新たな若者を歓迎する。


「登録ですね?こちらの紙に氏名と自己ピーアールなどを記入してください」


やって来たのは甲冑ひとりと三人の若者……いや、少年から青年期への途中といった年齢だろうか。


とにかく人間の男がひとり、人間の女がふたり、性別不明がひとりだ。


といっても、人間の姿をしているからと言って人間とは限らない。

ドラゴンや魔人が魔法で姿を変えているだけかもしれない。


……のだが、冒険者ギルドにはまず来ない人種だ。


『冒険者』とは銘打っているが、実質『職業何でも斡旋所』みたいなところだ。

様々な雑務、賞金首のビラ、魔物討伐の懸賞金、傭兵斡旋、ダンジョン情報売買、武具や薬の素材鋼材買い取りと、幅広くやっているが、そもそもこれは群れなければ生きられない人間や獣人を効率よく回すための組織。

ドラゴンや魔人といった強力な種にこういった『持ちつ持たれつ助け合い』といったものは必要ないのだ。



格好は甲冑を除いてかなりの軽装。


少年は鎖帷子と皮のガントレット、身体のあちこちにベルトでナイフが固定されている。

容姿は黒い髪に黒い瞳の、『可愛いボンボン』といったところか。

少女二人は、両方とも腰にカタナを差しているところは似ているものの、片方はこの辺りでは珍しいクナイを少年と同じく全身に、もう片方は最近普及されてきた“銃”、それも結晶がはめ込まれているところから“魔銃”を装備している。

クナイの少女は眼帯をしており、魔銃の少女は受付嬢が少し嫉妬してしまうほど美しい黒髪の少女だった。

ただ纏っている雰囲気が、妙に『凶暴』な近寄りがたいものであるため、おそらく好んで近づきたい奴はあまりいないのではないだろうか

最後に甲冑は、顔まで覆う全身鎧、それもなかなか質の良さようなものを着こみ、等身大のバトルハンマーを軽々と背負っている。

こちらは黙したまま、三人の後ろに立っている。


彼らの装備の“新しさ”などを考えると、『金持ち三人とその護衛』といった推測ができる。


しかし受付嬢は、そういった先入観で人を見ることの愚かしさをよく知っているため、その下世話な妄想をさっさと放棄した。


と、用紙を受け取った少年の声で意識が引き戻される。


「はいはい……あ、字書けないんだった」


それを聞き、いつものように代筆を申し出ようとすると、横からすっと出てきた手が用紙を奪う。


少年の隣にいた、魔銃の少女が手に羽ペンを持って笑う。


「貸しな。俺が書いてやるよ」


「あれ?何で書けるんです?」


「覚えた」


少女のドヤリとした笑顔がよく似合っている。


「キャハッ! 流石だね!」


「さすが。俺のも頼むわ」


「任せタ」


「よしよし、すらすらすらすら―っと。おい、この自己ピーって即チーム作るんだったら書かなくていいよな?」


少女の乱暴な問いかけに、受付嬢は笑顔を崩さずに(実際『ブサイクな荒くれに比べたら、この美少女な荒くれのほうがマシ。むしろキュート』とすら彼女は考えている)返答する。


「はい、かまいませんよ。氏名さえ記入していただければそこは空欄でも構いません。あとで変更も可能です。ただし氏名は変更不可となっております」


受付嬢はにっこりと説明を行い、渡された用紙を見る。


「……えー、ウニュー様、カラスバ様、クソムシ様、ゴミムシ様、でよろしいですか?」


そんなわけないと思いつつ問いかけると、三人が一斉に記入した少女を見た。


「……」


無言で拳を打ち出した眼帯の少女、それを簡単に受け止め嘲笑う少女。


「てへぺろー(嗤)」


そのやり取りを見た受付嬢は、驚きを隠せなかった。


そのどちらの動きも、彼女は見ることができなかったのだ。


バシンッ!という音がしたかと思うと、いつの間にかそうなっていたのだ。


だが後ろの甲冑が前に出て、極めて冷静に代筆を申し込んできたので、驚いてばかりではいられないと職務を行う。


「かしこまりました。お名前をお伺いします」


「俺がコール、アイツがタケチダ」


「コー…ル。タ……ケ……チ、出来ました。ではこちらのガイドブックを差し上げます。そこに書かれているのは冒険者組合の規定です。これらに違反した場合、組合からの除名もありえますので、ご注意ください」


ガイドブックと言っても十ページに渡ってびっしり細かい字が書かれており、とても読む気にならない代物だが。


しかし人として当たり前なことをきちんと守りさえすれば、細かいことはなあなあで済まされたりもするし、依頼主のイチャモンからも守ってもらえたりする。


この辺は豪気でがさつな冒険者らしいが、逆に言えば力があっても眉をひそめられるようなヤツは追い出されるということでもある。


あと、不思議なことに『細かいルールを盾にしてる何かアレな冒険者』もいつの間にか消えたりする。



「では模擬戦闘試験を行い、あなた方の暫定ランクを決めさせていただきます。幻影との戦闘ですので、負傷することはありません。が、幻痛はありますのでショック死は稀にあります。右手にあります階段を降り、地下訓練場へ行ってください。あ、これはパスすることも可能です。その場合ランクはDからになります。この辺りは自己責任で判断してください」


お決まりのセリフをすらすらと言い終えると、先頭にいた少年が振り返り、


「どうします?」

「テキトーに」

「異議なし」

「右に同ジ」

「では参加で」


一瞬で決を採った。

というか、丸投げだ。


「かしこまりました。試験は地下に担当の者がいますので、詳しくはそちらで窺ってください。ではご武運を」


受付嬢はいつものように送り出す。


「ありがとうございます」

「あざーす」

「どーも」

「ありがとウ」


四人はそれぞれ返事をし、そのまま地下試験場へと階段を降りて行った。


……『どうも』と言うか、『やはり』と言うか、先入観はアテにならなかったらしい。


『金持ち三人とその護衛』とするには奇妙な点が目立ちすぎる。


といってもここは『冒険者ギルド』。


誰にでも『機会と権利』を与え、『義務と責任』を負わせ、『面子と利ザヤ』を稼ぐ組織。


いちいち詮索はしないのだ。



受付嬢は彼らの書類を水晶に溶かし込み、冒険者の身分証明のカードを作りつつ、ふと思った。


「……最近、随分と新人ラッシュね。何かの予兆でなければいいけど」


二百年ほど昔にも、一度こういった新人ラッシュがあったそうだ。


その時は世界規模で大きな変革や戦が起きたという。


今も語り継がれる英雄譚(サーガ)なども、この時のものらしい。


「……フフッ、まさかね」


僅かな胸騒ぎを振り払い、受付嬢は引き続きお客への対応を行う。


しかし笑顔で依頼受理の対応を行いながら、ついついこの支部に最近入った新人の数などを数えてしまう。


(そういえば……)


『預言の災厄』。


あれはどうなったのだろうか?


預言の日を迎えても、世界は何ら変わることはなかった。

血の雨が降るだの、日の光が消えるだの、亡者の群れが押し寄せるだの言われていたが、そんなことはなく。


今日も今日とて我々は、いつも通りの日常を送っている。


どこぞに大軍が出動したそうだが、勝ったとも負けたとも聞かない。


(……アホらしいわね。新人ラッシュはたまたまで、預言は嘘だっただけでしょ)


並んでいたお客を裁き終え、ふぅと受付嬢は一息ついた。


と、そこでふと思い出した。


そういえば、先日やって来た、黒い髪の元気溌剌(ハツラツ)、超活発な少女。


彼女もなかなかの……。


「どーん☆!!」


と、『噂をすれば』どころか思い浮かべただけでその少女が現れた。



最近登録された大型新人、拳闘師(グラップラー)のサチが、依頼を終えて仲間とともに帰ってきたのだ。



みなさんフロストの本名おぼえてますかー?

実は作者もたまに忘れるという…ね。



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